蹴鞠に興じる義元のもとを、一匹の子猫が通りがかる。……と、その時、鞠が義元の足を逸れ、地面に落ちた。 てん、てんと幾度か跳ねて、猫の尻尾に激突する。 「なんと、ぶつかってしまったのか、の?」 シャーッと牙を出して威嚇する猫に、義元はわたわたと慌てふためく。 「すまぬの、大丈夫かの?」 猫の様子ををあちこちから伺う義元。 怪我はないようだが、猫は驚いたせいで感情が高ぶっているようだ。 「い、痛かったかの? どうすればよいのか、の……」 困惑した義元は、暫し唸りながら考える。そして良い案が思い付き、ぱっと表情を明るくした。 「おぉ、そうじゃの! そちに、まろの大事な鞠をあげるの! これでどうか許して欲しいの、の!」 ずいっと鞠を押し付けられ、猫は戸惑って少し後ずさる。 「……いらぬのか、の?」 残念そうに鞠を引っ込める義元に、猫はにゃーと鳴いた。 「おぉそうか、許してくれるのか、の! ありがとうの!」 それを許したと解釈した義元は、舞い上がり満足げな笑みを浮かべる。 「ふむ、仲良うなった記念に、そちに蹴鞠の極意を教えて進ぜるの!」 鞠を抱え、ゆったりと目を閉じた。 「雅の技を極むれば、やがて目覚むる和の心……遠慮するでないの!」 こほん、と誇らしげに咳払いする義元を、猫がじっと見つめる。 「まずこのように、鞠を投げて、足で蹴る……の、の!?」 一回目から失敗したようで、鞠が義元の足から逃げるように転がっていった。 「……い、今のは無しじゃの!」 大急ぎで鞠を追いかけ、手に取る。 義元がぱっと猫の方を振り返ったときには、そこにはなにもいなかった。 「の? 消えてしまったの……」 義元ははて、と首を傾げる。 ……しばらくして、また何事もなかったかのように蹴鞠を再開した。 ← |