半兵衛は塀の上を歩いていた猫を見つけ、笑顔で手招きした。 「こっちおいでー」 猫は半兵衛に歩み寄ると、広げられた手のひらをペロリと舐める。 「見てよ官兵衛殿。この子真っ白で可愛い!」 半兵衛が隣にいた官兵衛に話しかけると、彼はゆっくりと頷く。 「そうだな」 心なしか、表情がいつもより柔らかい。官兵衛の変化に目ざとく気付いた半兵衛は、にやにやと怪しい笑みを浮かべた。 「ふーん、官兵衛殿も動物を愛でたりするんだ?」 「卿は私を何だと思っている」 「ん? 悪ーい軍師でしょ?」 「……無礼な軍師だ」 冷ややかな眼差しで半兵衛を見下ろす。 ……そんな官兵衛に猫が近寄り、ふんふんと着物の匂いを嗅ぎ始めた。 やがて甘えるように顔を擦り付ける。 「あれ? この猫官兵衛殿のこと好きみたいだね」 無言で猫を撫でる官兵衛に、半兵衛は満面の笑みで問う。 「嬉しい? ねぇ官兵衛殿、嬉しい?」 「…………」 「官兵衛殿ー?」 「しつこいぞ半兵衛」 官兵衛に横目で睨みつけられるが、半兵衛はお構いなしに猫に微笑みかけた。 「よかったねー、官兵衛殿も君のこと大好きだってさ!」 「付き合ってられん」 呆れ果て、その場から立ち去る官兵衛。 「あ、行っちゃった。まーったく官兵衛殿素直じゃないんだから。ねぇ?」 半兵衛は、おどけた口調で猫に同意を求める。当然答えるはずもなく、猫はただ尻尾を揺らしていた。 ← |