縁側に座って茶を飲んでいた元就のもとに、一匹の猫が訪れた。

「……おや」

垣根の隙間からじっと見つめてくる猫に、元就は穏やかに微笑んだ。

「どこかの飼い猫かな。迷い込んだのかい?」

警戒しているようだ、猫は元就の問いかけにも一切反応せず、体を強ばらせている。


「大丈夫、私は何もしないさ。こっちにおいで」

猫はゆっくりと元就の足元に近付き、元就を見上げた。元就は口元を緩める。


「歴史家としての人生が終わったら、猫になるのもいいね。そして、自由気ままに暮らすんだ」


青い空を見上げる元就。その様子を、猫はじっと見つめていた。
やがて、元就は何かに気付いたように猫に向き直る。

「ああ、気を悪くさせてしまったかな? そうだ、猫だって苦労を知らないわけじゃない」

尻尾を振る猫に、元就は悲しげな笑みを浮かべた。


「生き物としてこの世に生まれついた以上、困難や苦悩は避けられない運命だからね」

元就はすっと目を閉じ、何度か頷く。

「でも、だからこそ幸せなこともたくさんある。人生ってものは本当によくできているよ。……おっと、また話が長くなってしまったね」


申し訳なさそうに頭に手をやる元就。その膝に、猫が飛び乗った。

「おや? 私の話を聞いてくれるのかい? 君は優しい子だね」

元就が背を撫でると、猫は気持ちよさそうに目を細めた。


「私はこんなつまらない話しかできないけど……それでもよかったら、いつでも遊びにおいで」





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -