(2/2) 「なんか、入りづらい雰囲気だな……」 三成の様子を見に来て、完全に部屋に入る時期を失った清正が途方に暮れていた。 「よう、清正! 頭デッカチの部屋の前で何してんだよ!?」 そこへドタドタと大きな足音と共に現れた正則。 清正はとっさに正則の口を手でふさぐ。 「馬鹿っ、声がでかい……!」 「もごっもごご、もが!?」 全く聞き取れないが、何すんだよ!? とでも言いたいのだろう。 「お前、何しに来たんだ?」 「もが、ふぐっ」 清正に問われたところで返事などできるまい。 ついでに、勢い余って鼻も一緒にふさいでしまっているため、正則は呼吸すらできていない。 正則が必死に清正の胸を叩くと、やっと手から解放される。 「ぶはぁっ! 死ぬかと思ったぜ……」 肩で大きく息をする正則に、清正は申し訳なさそうに頭をかいた。 「す、すまん」 「で、なんだよ? なんかあったのか? もっ、もしかして、三成死んじまったのか!?」 正則も三成を気にかけて来たのだろう、ものすごい剣幕で清正につかみかかった。 「いや、死んでない。むしろ元気だ、と思う」 「んっだよ心配かけさせやがってー! おい頭デッカチ! 何仮病使ってやがんだオラァッ!」 「あっ、こら馬鹿!」 清正は正則を止めようと肩を掴んだが時すでに遅し、正則の手によって三成の部屋の襖は勢い良く開かれていた。 スパァンッ! と響いた音に、辺りは一斉に静まり返る。 「ま、正則様? 清正様まで……」 「んなっ!? 椿!? み、三成ぃ! なぁーんで椿に飯食わせてもらってんだよ!」 ずんずんと遠慮なしに部屋に入る正則を、三成は心底嫌そうに睨みつけた。 「……黙れ、馬鹿。頭に響く」 「ずりぃ。ずりぃだろガチでっ! なあ清正!?」 「え、ま、まあ確かに……」 「だろ!? なあ椿っ椿! 俺にも、俺にもー! あーん!」 椿に向かって大口を開ける正則に、椿は匙を持ったまま戸惑った。 「でも、正則様。これは三成様の匙ですよ?」 「はあ?」 「馬鹿。少しは考えろ」 清正が呆れかえってうなだれる。 つまりは、間接的にではあるが口付けということになる。 数秒かかってそれに気付いた正則の怒りの矛先は、やはり病人である三成に向かう。 「三成てめぇーっ! 頭デッカチのくせに抜け駆けしやがってー!」 「唾がかかる。間近で騒ぐな」 「くっそおーっ! 相っ変わらずむかつく野郎だな!」 「あ、あの、正則様? お粥ならまだ余ってると思うので、そちらを……」 「違うんだよ! それじゃあ意味ねぇんだよっ! ちくしょーっ!」 椿が首を傾げて困っていると、ねねがやってきた。 「三成ごめんね! あたしったらお水渡すの忘れちゃって……って、こらぁ! またケンカしてるの!?」 「おねね様! 聞いてくださいよっ! 匙が三成に粥で椿をーっ!」 悔しさと怒りで興奮している正則の言葉は滅茶苦茶だ。だが、ねねはそんなことにも構わず、腰に手を当ててこう言った。 「言い訳しないっ! こうなったら四人まとめてお説教だよ!」 「ええぇー!?」 「なっ、おねね様!? 俺もですか!」 「あれ、私も……?」 とんだとばっちりだ。 三成は粥を全て平らげると、おろおろする三人を横目に、深く息を吐いた。 風邪が治った後も、しばらく三成の機嫌が悪かったのは言うまでもない。 2011/08/05 ← |