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 きっとここだろうと目星を付けた通りの場所に、彼は佇んでいた。
 切り立った崖の一番先。荒んだ大地が続く、地平の境界まで見渡せそうなその場所に紅孩児は一人でいた。彼のことだ、何も言わないけれど私が後ろにいることにも気付いているだろう。それでも振り返ることはない。
 真紅の髪が風に乗り流れる。息を呑むほどに美しい景色――でも、少しだけ胸が痛む。私は彼の後ろ姿ばかり見ている気がする。彼はいつも総てを背負ったまま、私の先を行くから。近くにいるのにそのひと欠片すら抱えることも許されないのはとても、苦しい。

「……紅の馬鹿」

 紅孩児の背中にしがみついて、チクリと針を刺すように呟いた。
 全身で感じる温度に、心音に、「ああ、生きてる」と安堵してしまうのは不安の反動なのだろう。――ずっと、こうしていられたらいいのに。それを願うには、あまりに彼は気高く一途すぎた。何一つ棄てられない優しさは、諸刃の剣だ。

「昔から、そうだろう」
「知ってる」

 変われないことも、止まれないことも、痛いほど知っているから。私もここから離れないと誓ったの。絶対に、守り抜くと。


荒野の最果てまで
――先になんて、逝かせない





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