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 ぷちん、ぷちん、と花びらを千切る。
 好き、嫌い、好き――。
 そっと心の中で唱えながら。意図的に散らせた花びらだけど、ひらりと舞い落ちる様はとても綺麗で。きっと君はこの花びら舞う景色も千切れた花の香りにも気付いていない。

 君の隣に座っているのに、君の視線はわたしになんて向いてない。金槌を振りかざして目の前のぼろぼろな木箱を直すことに必死だから。始めは時々言葉も交わせたけど、今はただひたすらに手を動かして途切れてしまった会話。
 寂しい――。それでも構ってなんて言えない。わたしは君の特別じゃないから。我が儘なんて、言えないから。

 好きか嫌いどちらかでいいの。君の気持ちが見えないから、知りたいから。
 誰かに教えてほしくて、誰も教えてくれなくて。どうしようもないから咲き誇る花を一輪摘んだ。


 今まで淡々と花びらに触れていた手が最後の一枚を前にぴたりと止まる。
 花びらが全て散ってしまえば決まってしまうから。怖くて怖くてわたしの手は躊躇ってしまうの。だって次の言葉は――。

 花占いなんてただの気休めにしかならないことくらいわかってる。この一枚が散っても運命が変わるわけじゃない。 そんな、曖昧なもの。

 強くないわたしだから、何かに頼って。そして、怯えて、逃げ出して。結局何も動かない。これは臆病なわたしにぴったりの恋。
 それが何だか悲しくて、苦しくて、重くなる心に従うように俯く。自然に流れた涙がぽたりと静かに地面へ落ちた。  自分をごまかすようにまた開いたばかりの花に手を伸ばす。
 もう一度、今度はきっと――。


 摘み取ろうとした花に触れた瞬間手首をがしり、引き戻すように掴まれる。

「あんまり何本も摘むなよ、折角咲いてんのに」
「作、兵衛……」

 顔を上げたわたしがまさか泣いているなんて想像していなかったのか、一瞬止まって急に慌て出す君の顔。

「お前、何で泣いてんだよ! お、俺か? 俺が何かしたのか」
「ちがっ、違う」

 困らせるつもりはなかったのに。悪いのは君じゃない。伝えたいのに上手く言葉が出ない。

「ほら、泣くなよ。泣いてちゃ俺も千紗が何言いたいのかわかんねえから、な?」

 君がわたしに気付いてくれたから。わたしの想いがしおれてしまう前に。
今度は嬉しくて止まらなくなる涙。

 君への想いが育てた花なんだ。心の奥底で、誰にも見つからないようにひっそりと。
 笑った顔も、怒った顔も、全てが水で光で風で嵐で。君がいなきゃ生まれなかった花だから。咲かせるのも摘み取れるのも、できるのは君だけ。

 もう曖昧な花びらに頼るのは寂しい。慰めようと優しく頭を撫でる掌にわたしは確かな気持ちを見つけてしまったから。今度は君の気持ちで咲かせてほしい。


コイサイテハナ
(願うのは君からの好き、それだけ)





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