小皿に乗ったケーキの最後の一口を運ぶ。どうせ底知れない胃袋の誰かさんは先に全部平らげてしまうだろうからと、予め別に残しておいたのは正解だった。そうでなければこんなにゆっくりと食後のデザートなんて食べていられなかっただろう。やはり楽しみは最後に味わうのが一番いい。
「あ、」
とうに食事を終えふらふらと辺りをうろついていた悟空が私の顔を見て足を止める。
「どうしたの」
「千紗、クリーム付いてる」
「嘘……!」
「ほんとだって、口のとこ」
気をつけていたつもりなのに。ましてやそれを見つけたのが悟空というのも余計に羞恥心を煽る。よりにもよって一番無頓着そうな相手に。
「ちょい待って」
そう聞こえたが早いか、彼の顔が迫ってきたが早いか。少なくとも拭おうとした私の手が辿り着く前に。そっと唇が近付いて、口許のクリームを攫う。
一瞬で離れたはずなのに舌が触れた温度はまだ消えない。
「へへっ、あっまい」
いつもよりほんのり赤みを帯びた顔で彼は言う。生クリームが甘いのは当然でしょう、なんて言えるほど私も冷静じゃなくて。触れられた瞬間から鼓動が速くなるばかり。焦りにも似た感情が胸を埋めつくす。
違う、これは。こんなことで動揺するはずがないと自分に言い聞かせる。あり得ない――こんな気持ち、君に抱くなんて思ってもいなかった。
デザートにロマンスはいかが?
絶対意識なんてしないと、思ってたのに――