気怠い空気が蔓延した万事屋のリビング。時刻はもう昼になろうとしているかかわらず、銀時はだらけ切った体をソファーに預けている。他の人間は出払っており千紗以外には誰の姿もない。
「銀さん、起きて」
これでもう何度目かのその台詞。最初は力強かった声も次第に投げやりになり、沈む音には苛立ちも混じっているようだった。随分前に目覚めていたが、もう少し彼女の気を引いていたいという子供染みた気持ちが芽を出して瞼は閉じたまま。
いつまで続くだろうか。いつまで千紗を引き付けていられるだろうか。見えないけれど、自分の傍らで焦れているであろう彼女を想像すると不思議と気持ちが高ぶるのを感じるのだ。
「ねえ」
「……んー」
意識を漂わせる振りをして、曖昧なうわごとを口にしながら。もうそろそろ頃合いだろうか。
「……銀さんの馬鹿」
千紗から零れた寂しいと言わんばかりの声に思わず口許が緩む。人目や理性が邪魔して、普段はまず見られないその一面。――ああ、たまらないと思っていることを彼女が知ればきっと怒るだろう。
ふっと千紗の気配が離れそうになる。さすがにこれ以上は……と彼女の腕を掴んで目を開けた。
「あぁー、おはよ」
「…………」
緊張感のない第一声に千紗は無言で視線を逸らす。尖らせた唇からは不機嫌さが滲み出ているが、自分へと向けられたものだと思うとそれすら可愛らしいものに感じた。
掴んだ腕を引き寄せ、自らの中に閉じ込めると予想通りの抵抗が返ってくる。離せと言われれば離したくなくなるのが人の性だと言うのに。どこまで純粋なのだろうか。生憎、女の細腕で目一杯胸を叩かれたくらいで怯むほどやわじゃない。その先に欲しいものがあるなら尚更だ。
「離してよ、もう銀さんなんてしらないから」
「やだ。俺はこうしてェの」
髪の隙間からほんのりと赤くなった耳が見えた。本気で嫌われているわけじゃないという確信が銀時を更に調子付かせる。少なくともこの腕が解かれることは、当分ないだろう。
「機嫌直せって。思う存分、甘やかしてやるから」
さて、まずは何から始めようか――――。
悪戯なDESIRE「なァ、どうされたい?」と、熱を帯びた吐息で囁く。
焦らされていたのは自分か彼女か、もうわからないくらい交錯した感情がもっと欲しいと急き立てる。いっそこのまま永遠に、この腕の中に仕舞い込んでしまえたらいい。欲深い指先で愛しい輪郭をなぞるように確かめた。