Novel | ナノ



 あの本は確かこの辺りだろうか……。そこら中に散らばる書類をかき分けて、天蓬は朧げな記憶を頼りに探り当てたそれを手に取った。中身に目を走らせながら、時折ソファーの片隅でまどろみに誘われている千紗を見る。

「あの……、もう部屋に戻ってもいいですよ」
「まだ眠くないからここに居る」

 眠たそうな目を必死に擦りながら言われても、その姿に説得力はない。一度こうなった彼女は頑なで、なかなか意思を変えてはくれない。いつもはそんなところも可愛らしいと微笑ましく思っても、今回ばかりは勝手が違う。

「僕はもう少し調べ物があるので……」
「じゃあ、それが終わるまで」

 やはりこの様子では部屋に返すのは無理そうだ。あまり気は進まないが、それ以上に自分の傍で無理はされたくない。天蓬は最終手段へと行動を移す。

「ちょっとすみません」
「天蓬……?」

 千紗の隣に座ると肩を引き寄せ自分の元へと寝かせる。俗に言う膝枕の格好になり、彼女に上から声をかける。

「眠たかったらいつでも寝ていいですよ。寝心地は……あまり良くないかもしれませんが」

 しばらくすると横になったことで緊張が解けたのか彼女は夢の中へ。規則正しい寝息が耳に届く。当初の目的は果たしたものの、読みかけの書物の続きよりその下に見える彼女の寝顔の方が気になって一向にページは進んでくれない。

「やっぱり、部屋まで送り届けた方がよかったかもしれませんねぇ……」

 それは、あまりに優しく甘やかで。
 口元を緩めながらもこの状況を少し悔いていたことを幸せそうに眠る彼女はきっと知らない。

傍らで眠る、温かな存在
(貴方に甘い僕のささやかな後悔)





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