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 どこか物憂げな夜だった。暗く濃く、されど漆黒とは言い難い夜の帳は闇をより深く映す。
 いつの間にか騒がしくなった外に耳を澄ませると、くぐもった雨音が聞こえた。この雨はいつまで降り続くだろうか。日も暮れて外に出る用事もない今、さして不便もないけれど。

 雨音に混じり外から控えめに戸を叩く音がした。誰かが来る予定はない。珍しい時間の来客に玄関へと向かう。誰かと思い開けてみると、これまた珍しい人物が戸の先に立っていた。

「土方さん?」
「悪ィ、しばらく休ませてもらえるか」

 壁際に佇むその男はそう言うと決まりが悪そうに目を逸らし、千紗の返事をただ待っていた。

「ええ……、構いませんが……」

 言葉が途切れがちになるのはどうしてもその姿に目が行ってしまうから。仕事中であることを示す黒い服は濡れていて、髪からも水が滴り落ちている。それは数分前に降り出した雨のせいだと容易に想像できるけれど。

「上がってください。今拭くものでも持ってきますから」
「ああ、助かる」

 あとは温かいものを、と慌ただしく予定を立てながらも思い浮かぶことが一つ。奥へと向いた足を一旦止め、もう一度雨に濡れた人の元へと向き直る。

「ねえ、土方さん」
「…何だ?」
「いえ、」

 わざわざこんなところに来なくても、雨宿りならもっと手近な場所があったでしょうに。そう言いかけた口をつぐんで微笑んだ。

「どうぞゆっくりしていってください」

 いつも気安く会えるわけではないから、雨の中ここまで来た理由を自惚れるくらいは許されるだろうか。

雨夜の逢瀬
(きっと貴方は何も教えてはくれないだろうけど)





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