校舎と外を繋ぐ通路は雨雲に覆われた空のせいか薄暗かった。
手元のごみ袋をもう一度持ち直して通路を進む。中身の大半が紙くずでさして重くもないけれど、その大きさのせいかどうしても歩きづらい。それでも少し遠回りになるこのルートを選んだのは雨のせいだった。晴れた日ならば他に通れる道も近道もいくらでもあるけれど、この天気では自然と屋根のある道を選んでしまう。
通路を抜ける頃、体育館の中から活気のある掛け声が聞こえた。立ち止まってみると半分ほど開いた扉から丁度練習中の剣道部の様子が見えた。
小刻みに動く部員達の声に混じり聞こえる打ち合う竹刀の澄んだ音。ぼんやりと眺めていることしかできない私は別の世界から彼等を覗いているような気分だった。
しばらくして、一際張りのある声が響く。それが合図だったのか、竹刀の音が次々と止んだ。
そして、部員の中の一人が面を外した。それは数日ぶりに見た潮江先輩の顔だった。
一息つく間も作らず、潮江先輩は部員達に指示を出す。知らない人間が見れば先生や師範だと勘違いしてもおかしくないくらい堂々とした立ち振る舞いで、最上級生らしい威厳を見せる。凜としたその横顔に憧れる自分もいれば胸が詰まるように息苦しくなる自分もいた。
わたしが気安く声を掛けてはいけないような、そんな気さえした。
真剣な先輩の邪魔になるようなことをするつもりは元々なかったけれど。ただ、そこから見た潮江先輩の姿はやけに遠く見えた。
早く行かなくちゃ――。自分の心がそう語りかける。その言葉に手を引かれるように、わたしはその場に背を向けた。自分が用事の途中であることに気が咎めたわけじゃない。ただ、そこから離れたかっただけ。
その日から自然と、あの人の姿を探すこともなくなった。
Melancholy Blue
寂しくなるのはどうしてだろう