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マグマ団の基地の中。俺はナマエとその廊下を歩いている。
「幹部から直々に話があるって珍しいよね。いったい何の話だろう?」
こいつは滅多に呼ばれない幹部から呼び出しをされ、呼び出し場所の会議室へ向かっていた。
考え事をしながら歩くナマエは注意力散漫になっている。この姿は何度か見たことがある。そして、その後こいつがどうなるのかも容易に想像が出来た。
「っ!うわあ!?」
予想通りナマエは何も無い場所でつまづいた。そして身体が前に傾いていく。やっぱり転んだか。
俺はナマエが地面に衝突する前に、とっさにナマエのフードを噛んで上に引っ張った。
下半身はズシャァと転けた体制だが、上半身は俺のお陰で地面に接触していない。全く、いつまで経っても世話が焼ける奴だ。
こいつは俺がポチエナの時から何度か転けていた。しかし今よりも身体が小さかったせいで、助けようとフードを噛んでもこいつの体重を支える事が出来なかった。結果ナマエは情けなく何度か転けていたのだ。
俺が進化して良かったと思える出来事の1つだ。
「またやっちゃったな…。ありがとね」
そう言ってナマエは気まずそうにゆっくりと立ち上がった。そしてフードをしっかりと被り直す。
「先輩にバカにされるだろうなぁ。とりあえず行こっか」
ナマエはため息をひとつ吐いた後に、また歩き始めた。少し進んだところで、こいつは一つの部屋の前で立ち止まる。そこはナマエの自室だった。なんか忘れ物でもしたのか?
「悪いけど、グラエナはお留守番しててね。上の人から誰も連れてくるなって言われてたんだよね…」
ナマエは部屋の扉を開けて、俺に入るよう促す。別に俺だけ待機ならそれで構わない。でも言うの遅すぎだろこいつ。なんで直前で言ってくるんだよ。
まぁ俺が今更文句を言っても仕方ないから俺は素直に部屋に入る。
「じゃあ、良い子にして待っててね」
俺が部屋に入った事を確認して、俺に手を振った。そして扉を閉めてナマエは会議室へ向かって行った。
俺は1人になって暇になった。けどここには暇を潰せる様なものなんて無い。
仕方なく俺は部屋の端にあるクッションの上に座る。このクッションは前にナマエとデパートに出掛けた時に買った物だ。
ナマエは優柔不断で、どの柄のクッションにするかかなり迷って無駄に時間を費やした。
結局2つ買って、1つは俺専用のクッションになっている。思ったより座り心地も噛み心地もいいので、今ではすっかりボロボロだ。それでも俺のお気に入りの1つだ。
俺はそのクッションの上に座って瞼を閉じる。ゆっくりとやってくる睡魔に逆らわず、そのまま眠る事にした。
どのくらいの時間が経っただろうか。廊下の奥から、この部屋に向かって来る足音が微かに聞こえた。この足音は間違いなくあいつのものだ。ようやく終わったのか。
俺は大きく欠伸をした。前脚を伸ばして身体を整える。そして扉の前に座った。
次第に大きくなる足音が部屋の前で止まった。ガチャリと扉を開けたのは、思った通りナマエだった。
「ただいま、良い子にしてた?」
こいつは当たり前のように俺の頭に手を乗せて、頭を優しく撫でる。けど、いつもと違うのはなんだか覇気が見られない。
笑ってるけど、行く前よりも明らかに落ち込んでる。全然誤魔化せてないんだよ、ばか。
どうした、偉い奴に叱られたのか?他のしたっぱに虐められたのか?俺が仕返ししてやる。
俺が不穏にムッとしたのが伝わったのだろう。ナマエは更にわしゃわしゃと頭を撫でた。
「なんでもないよ。大丈夫だから」
俺から見れば、大丈夫には見えない。何か隠してやがる。でも無理に問いただしてもナマエは何も言わないだろうし、ひとまずは放っておくか。こいつが自分から話してくれるまで俺は待つ事にする。
その晩、俺はいつも通りクッションの上で丸まって寝る。するとベッドで寝ているはずのナマエが、じっと俺を見ていた。不気味だわ、怖ぇよ。何か用でもあるのかよ。
俺は顔だけを上げて、ナマエを見つめ返す。
するとナマエは少し毛布をめくって、自分のベッドをポンポンと叩いた。
「ねえ、たまには一緒に寝ない?」
突然何を言い出すんだこいつは。一緒に寝る程俺はもう子供じゃないんだ。いつもだったら、無視してそのままクッションの上で寝るだろう。
けど、俺は午前中の事が気掛かりだった。何か不安を抱えてんのか。いつもと違うナマエに少し心配した。
「おいで」
最後に優しく呟くように出た言葉で、俺は腰を上げた。仕方ない、今日だけだからな。
俺はそのままベッドの上へ飛び乗った。そしてスペースを空けてくれたナマエの隣りで横になる。ナマエは俺の背中に腕をまわして抱き着いてきた。俺は抱き枕かよ。
呆れた目を向けると、ナマエは近くなった距離で幸せそうに頬を緩めた。
「暖かいから、すぐに眠れそう」
そりゃ良かったよ。俺はお前の寝相が悪くない事を願うだけだがな。多分大丈夫…なはず。
「ねえ、グラエナ。明日休みだから、海見に行こっか」
俺をゆっくり撫でながら言うこいつは、今にも寝落ちしそうだ。大丈夫かよ。
海はこれまでにも行った事はある。ミナモデパートで買い物をして、海で遊んで。またそのパターンでの休日の過ごし方か。ナマエの気が晴れるなら俺はどこでもいいけど。
俺は了承の意味を込めて小さく吠える。するとナマエはそれを理解して、また笑った。
「良かった。グラエナとこうやって、ずっと一緒に寝ていたいなぁ。もし一緒に住むなら、前に行った草原の近くも良いかもね。ふふ、おやすみ、グラエナ」
おう、おやすみ。
既に寝ぼけてるのか素なのか分からないが、とにかく眠そうだ。さっさと寝ろよ。
俺もナマエと同じように目を閉じて、ゆっくりと眠りに落ちた。