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「はー!やっぱり外は涼しいね!」

ほのおの抜け道を出ると、ナマエは大きく背伸びをした。もう夕方で、外はまだあまり暗くないが風が少し冷えてきている。


「えっ」
「え?」


突然目の前に現れたのは、バンダナを巻いているボーダー姿の人間。そいつの格好を見れば一目でアクア団の奴だと分かる。恐らく向こうもアクア団のしたっぱなのだろう。

1人で何しにここに来たかは知らないが、トレーナーとトレーナーの目が合えば当然のように始まるポケモンバトル。ましてやあいつは敵なのだ。バトルが始まらないわけが無い。


「くそっ…、こんな所にマグマ団がいたなんて!仕方ない、行けっ!ズバット!」
「えっ、あっ!バトル!お願いポチエナ!」


一瞬、当然現れたアクア団に驚いてポカンとしていたようだったが、バトルが始まると認識すると真剣な表情になる。

俺達のバトル勝率は、特訓を重ねて今のところ4割だ。以前に比べたらだいぶ進歩したが、強くなるにはまだまだだった。今回も勝てるか正直不安だが、ここで負けるわけにはいかない。
俺は目の前を飛んでいるズバットに集中した。


「ポチエナ、かみつく!」

俺はズバットに向かって助走をつける。そして前脚に力を入れてズバットへ飛びかかった。
しかし俺がズバットに辿り着く前に、ズバットは素早く飛んで攻撃を避ける。姿があっという間に見えなくなった。くそ、どこに行ったんだ!

「ポチエナ、後ろ!」
「ズバット、そのまま驚かせ!」

突然後ろからズバットが現れて、俺を驚かしてくる。攻撃自体にあまりダメージはない。けど驚いた拍子に、そのまま何も出来ずに地面へと着地してしまった。

さっきのズバットで驚いた事により、今だに心臓がバクバクと忙しく動く。落ち着け、俺!

「次の攻撃が来るよ!避けてたいあたり!」

俺は正面からやって来るズバットを見据える。通常攻撃が来ると思い、それを迎える体勢に入る。

「あやしいひかり!」

ズバットは俺に、紫色の光をふわりと当てて来た。この攻撃は予想外で、すぐに頭がくらくらして来た。目が回る。正面が分からない。けど俺はズバットに攻撃しなきゃいけない!俺は足に力をぐっと入れて、ズバットがいた方向へとたいあたりをする。

しかしそこにズバットはいなくて、勢い余って地面に突撃してしまった。俺の体力は減る一方だ。


「いいぞズバット!よし、このままポチエナを倒してあの女を連れていくぞ。マグマ団の情報聞き出すか!」

…今、あの男は何と言った。
俺を倒して、あいつを連れていく?

ふざけるなよ、そんな事をさせてたまるか!なおさら俺は負けられなくなった。

「とどめだ!ズバット、翼で打つ攻撃!」
「避けて…いや、耐えて!」

混乱して俺が避けられないと判断したナマエは、願うように耐えろと俺に言った。

俺はズバットに立ち向かう。ズバットは急降下で俺に突撃してきた。更にダメージが増えて正直キツい。けどまだ倒れる程のダメージじゃない。ナマエの指示通りに耐えてやったぞ。

そしてズバットが俺に翼を当てたその瞬間を、俺は見逃さなかった。俺はズバットの首元に思いっきり喰らいつく。

噛み付いたままズバットを地面に引きずり降ろした。ズバットはバタバタと羽根を動かして、俺から必死に逃げようとしている。誰が離すものか。俺はズバットにぐっと歯を更に深く突き立てる。
バチッ。俺は歯から電気を流す。来た、この時を待ってたんだ。
かみなりのキバ!

俺の攻撃を受けたズバットは痙攣を起こす。この機会を逃さないよう、何度も何度もかみなりのキバを連続して当てる。
すると、ビクビクしていたズバットからフッと力が抜けた。だらんと翼が地面に落ちて、もう動く気配は見られない。

それを確認した俺は、ようやくズバットの首元から口を放した。ざまあみろ、俺達の勝ちだ。

「やったあ!勝った!」
「戻れ、ズバット!」

アクア団のしたっぱはズバットをボールへと戻す。ギリッと歯ぎしりを立てて悔しそうに顔を歪めた。

「こうなったらあの女だけでも…!」

そう言った敵の目がナマエを捕らえたのが分かった。こいつを無理矢理にでも連れて行く気かよ。そうはさせるか。弱いナマエを守るのが俺の役目だ。

俺はナマエの前に立ってアクア団を睨む。
怒りの感情が体中を巡る。心なしか、体温が上がってきている気がする。身体が熱い。

すると突然身体から光が溢れてきた。目線もだんだん高くなって、光が収まった。身体がひと回りくらい大きくなってる。

「えっ、進化…!」

こいつの言葉が耳に入って、ようやく俺は進化したのだと理解した。
かなり嬉しい事だが、今はそんな事を言ってる暇はない。

ぐるる、と鼻に皺を寄せ、歯を見せるようにしてアクア団のしたっぱを威嚇する。これ以上やるなら、人間相手だって容赦はしないぜ。
低い声でウウ、と唸った後に思いっきり吠えてやった。

「うわっ!?お、覚えてろよ!」

アクア団の奴は、ビビりあがって捨て台詞を吐いてから走って逃げていった。


…ふぅ、なんとか一難去った。良かった。俺がため息を吐いたと同時に、後ろから首まわりがギュッとされたのが分かった。

「凄い!凄いよポチエナ!あっ、もう進化したからグラエナか!格好良いねグラエナ!」

ナマエは俺の首まわりに抱きついて顔を埋める。いつも以上にテンションが上がってる。
以前は触られるのも好きじゃなかったが、それももう慣れてしまった。
俺はバトル直後で疲れている事もあり、その場でうずくまる。
それに気付いたナマエは、慌てて俺から放れて鞄に向かった。そして、いいきずぐすりを取り出して俺に使った。

「たくさん傷ついてたのに遅くなってごめんね。これで元気になったかな?」

いいきずぐすりのお陰で、俺はすぐに体力を取り戻した。全く、こいつの鞄の中は俺に必要な物しかないのかよ。少しは自分に必要なやつを入れたらいいのに。

「でもついにグラエナに進化したんだね!すっごい嬉しい!」

そういうナマエは、かなり満面の笑みで話しかけてくる。これ程に喜んでる姿を見るのは、俺達が初めてバトルに勝った時かもしれないな。けどこいつは常にへらへら笑ってるから日頃と大差ないかも。

「グラエナ、かみなりのキバ覚えてたんだ!凄いね!」

…もしかしてこいつ、俺が今までかみなりのキバを覚えてること知らなかったのかよ。どうりで今までのバトルで指示が無かったわけだ。俺は生まれてからずっと覚えてた技の1つだというのに。やっぱりこいつはどこか抜けている。

「でも、かみなりのキバより、ほのおのキバだったらマグマ団っぽかったのにね」

こいつは俺の身体を撫でながら、しみじみと言葉を吐いた。でも俺は、ほのおのキバじゃなくてかみなりのキバで良かったと思っている。

こいつの敵のアクア団は主に水ポケモンを使っているらしい。さっきの奴は、したっぱだからかズバットを使ってきたみたいだけど。

そんな水タイプや飛行タイプのポケモンからお前を守るには、かみなりのキバの方が都合が良いだろうが。
けどこいつは、俺がそう思ってる事なんてちっとも考え付かないんだろうな。全く、気楽なもんだ。








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