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「あっつい…暑いよ…」
ほのおの抜け道のど真ん中、この場所のせいで気温が上昇している。ナマエはぺたりと地面に座っていた。
今日のナマエの仕事は、必要個所での見張り番だ。最近、アクア団とかいう奴らが俺らの邪魔をするらしい。その対策として、したっぱのしたっぱであるこいつまでもが遠距離に派遣された。
マグマ団は立場が下になればなるほど、重要な場所から遠く、そしてより暑い場所へと配置される。
したっぱの配置場所は、号令をかけて早く整列した奴から重要な場所の警備を任せてもらえるらしい。
でもナマエは、したっぱのしたっぱで、それ以前の話だ。陰では雑用係なんて呼ばれてる事を、こいつは知らないだろう。
今ナマエがいる場所の周りには、他のマグマ団員はいなかった。もっと重要な場所に配置されているらしい。
つまりこいつの居るこの場所は特に重要視されていない場所だった。
他に誰もいないのをいい事に、ナマエは壁に寄りかかって座っている。
おい、一応職務中だぞ。
俺はナマエの足元に軽く頭突きを与える。すると俺の意志が伝わったのか、ごめんごめんと笑いながら俺の頭を撫でた。
「だってさ、暑くない?ポチエナ平気?」
俺は人間と違って弱くないから、このくらいの暑さなら平気だ。対するナマエは見るからにへばっている。他の人間よりも弱々しい奴だから仕方ないか。
俺はナマエの持っていた鞄に頭を突っ込む。そして目的の物を口に加えて、それをナマエに押し付けた。
「えっ、私においしいみず?これはポチエナのために持ってきたんだから駄目だよ」
そう言ってこいつは俺においしいみずを返そうとする。あほか!明らかにお前の方が今必要だろ!
俺はさっきよりも強い力でおいしいみずをぐりぐりと押し付けた。
「分かった分かった。飲むから、だから落ち着いて」
ナマエは笑いながらようやくおいしいみずを受け取って、プルタブを開けた。
「なんか私ポチエナにお世話されてるみたい。助かってるけど」
くすくすと笑いをこぼしながら、おいしいみずを飲んでいく。お世話されてるみたい、じゃなくて間違いなく俺が世話してやってんだろ。お前は1人じゃ頼りないからな。全く、俺がいなきゃ駄目な奴だ。
おとなしく水を飲むこいつを横目に見ながら、俺は隣りに座る。
するとこいつは半分残っているおいしいみずを俺に差し出して来た。
「ほら、ポチエナも水分補給しなきゃだめ」
これは俺が断るという意思表示で無視をしても、無理矢理飲ませてくるパターンだ。俺の事を心配してくれているらしい。
いつも頼りなく慌てふためく癖に、こういう時に限って強気でくる。普段から強気でいてくれたら少しは俺も楽になるんだがなぁ。
そうしたら他のしたっぱ達から雑用なんて押し付けられずに済むのに。こいつが雑用を押し付けられると、その分俺達の特訓の時間だって少なくなるのだ。
俺はため息を吐いて、ナマエから有り難くその水を貰う事にした。
「あ、先輩から連絡だ」
そう言ってナマエは、マグマ団から支給された通信機を取り出した。通信機に出て、先輩と少し会話した後に電源ボタンを押す。笑顔を浮かべたまま俺を見る。
「今日の任務はもう終わりだって。帰ろっか!」
基本的にマグマ団は現地集合、現地解散のスタイルだ。他の団員とも特に会わず、帰ってアジトで結果報告すればいいだけだから楽だ。少しくらい、ぶらぶらして帰っても問題はない。
ナマエと一緒のタイミングで俺も立ち上がる。
今日はちょっと散歩して帰りたい気分だな。そう思ったところで俺は態度には出さない。下手に意思表示をして、ナマエが間違った解釈をしてしまったら大変だからだ。
以前なんて、バトルをしたいと伝えたつもりが、お腹が減ったと勘違いされてしまった事がある。
ポケモンフードやきのみを大量に用意された。
そこまでは別にいい。こいつは更にポロックとかいう菓子まで作りやがった。正直俺はポロックが好きじゃない。
というのも、ナマエが作るポロックはあんまり美味しくないからだ。
初めて作るというポロックに、少しは俺も楽しみにしていた。きのみがベースのその菓子は、作ってる途中から既に良い匂いが漂ってくる。これで期待するなって言われた方が無理だった。
「出来た!どうぞ召し上がれ!」
俺の目の前に出来立てのポロックが置かれる。色とりどりのそれらは、匂いは美味しそうだった。
俺は疑う事なくポロックを勢いよく口に入れた。
しかし匂いや見た目と反して、ポロックの舌触りはザラザラして気持ち悪く、ことごとく俺の嫌いな渋い味が待ち受けていた。
嫌がらせでわざとやってんのかと疑った事もあった。
しかしナマエは満面の笑みで「おいしい?」なんて言うもんだから、俺は苦い顔をして渋々それらを食べるハメになったのだった。