ループする世界

「名前、今日朝から様子が変だぞ」

いつも通りのお昼休み。いつも通りのエースとの昼食。
ただいつも通りではないのは、私の記憶、そしてこの感情だ。

「それに登校する時から気になってたけど、泣いただろ」

朝から目が赤かったし、名前は分かりやすいからな、と眉尻を下げながら私の頭を撫でる。
あれだけ私が躊躇ってエースに触る事が出来なかったのに、エースはいとも簡単に私に触れる。なんてずるい奴だ。

「登校する時に聞くより、昼に聞いた方がゆっくり話せると思ってあえて朝に聞かなかったんだけどよ。何があった?」
「…あのね、エース」

エースが小さく驚くのが分かる。この時代ではエースくんと彼を呼んでいたが、今私が呼んだのはエース。今まで、何回も何十回も呼び慣れていた愛おしい人の名前。

「私、前世の記憶ってやつ、思い出したんだけど」

色んな感情が溢れてしまそうで、たどたどしく言葉を繋ぐ。
するとエースは目を見開いて、撫でていた手をピタリと止める。

「私、エースに直接好きって言った事なかったよね?」

そうだ、私は確かにエースが好きだった。けれども直接エースに好きだと伝えた事はない。…彼が寝ている時を除いて。

「あー…、それな」

実は知ってた、そう告げる彼は少し気まずそうに目線を横にずらす。ちょっと待て。私はエースに直接言った事もなかったし、エースからの告白もなかったはずだ。
もしかして、寝ている時の小さな告白を聞いていたというのか。知られていないと思ったのに。

「じゃあ、恋人同士だったっていうのは、」
「なんつーか、暗黙の了解ってやつ?俺、名前が好きだったし、お前も俺が好きっつってたし」

何だそれ。
前世の私は凄く悩んで、それでも好きだなんて言えなくて。楽しい家族であり続けたい気持ちと、一歩そこから踏み出したい醜い私の欲望。そんな葛藤を抱えながら過ごしてきた日々が、こんなにあっさりと崩されるとは。

「…エースの馬鹿。せめて言ってくれたって、」
「あの時は俺ら海賊だったしな。いつ死ぬか分からないのに気安く愛だ恋だのを言っていいか俺には分からなかった。愛してるって呪いの言葉に似てるよな。相手を束縛して逃さないようでさ」

実際名前より先に死んじまったし、と自傷気味に微笑むエースは今にも泣きそうに見えた。

「だから、俺に捕らわれずに幸せになってほしいって思ったんだ」
「…勝手な事言わないでよ」

俺がいなくても幸せになってほしい、そんな意味合いに聞こえる。
私はキッとエースを睨む。視界がぼやけている中で、雫が溢れないように我慢しているのがせめてもの意地だ。

「いなくなったのに幸せになってほしい?ふざけないでよ。平気でそういう事言うエースは残酷すぎる。エースは私の“幸せ”に入ってないの?私の“幸せ”なんて全然考えてないじゃない!」
「…ごめん」

エースにグイ、と引っ張られ胸の中に収まる。エースに抱きしめられたのは初めての事だった。今も、昔も。その安心感ある温かさに、堪えていた涙が溢れ出した。

「俺なんか、誰も愛してくれないと思ってた。生まれて来ないほうが良かったのかって何度も悩んだ。でも、それでも。俺を愛してくれたことがすげェ嬉しかった。そのことに満足しちまって自分の事ばっかりで名前の事考えてなかった。名前の幸せを誰よりも願ってたはずなのに。ごめん」

抱きしめている腕に力が入るのが分かる。
私もエースの背中に手を回して抱きしめ返す。やっと、エースに触れる事が出来た。

「これからは、名前を幸せにする。ずっと一緒にいる」
「…もう勝手にいなくならないでね」
「あァ。約束する」

エースを見上げると、笑いながら涙に濡れた表情。お互いが泣きながらも笑顔に溢れるのは不思議な感覚だ。
ようやく、言える。今までどれだけ我慢しただろう。喉まで来ていた言葉を飲み込んで、口を閉ざして平常を装って。でも今なら、もうそんな事を考えなくて良い。素直に、純粋な気持ちで。

「エース、好きだよ」
「ありがとな。名前、ずっとこれから先も愛してる」





index
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -