しんだ後の思想
「名前!一緒に昼メシ食おうぜ!」
あの告白があってからというもの、エースくんは積極的に私に構うようになった。お昼は必ず一緒だし、登下校さえも共にしている。というかエースくんが着いてくる。
告白後はどうだったのかとなっちゃんに迫られて告白の状況の報告、そしてどうしたらいいのか相談したところ
「それほど名前の事が好きなのよ!良かったじゃない!」
とまさかの肯定的な意見。なっちゃん曰く、エースくんは結構モテて人気者らしい。今のうちに捕まえておきなさいよ!と背中を叩かれた。待って、そのエースくんけっこう電波的思考なんだよ?なっちゃん聞いてた?他人事のように話を進めるなっちゃんを睨んでみるけど、ケラケラと笑われる。美人ってずるい。
昼休み、いつものように迎えに来たエースくんに待ってもらってお弁当を鞄から取り出す。
そしてあの告白があった屋上でお昼ご飯を食べるのが日課になっていた。
エースくんと一緒に屋上へ向かう。あの電波的思考がなければ至って普通の人だ。話す分には問題がないし、素直で良い人だと一緒に過ごすうちに知っていった。
誰もいない屋上の端に座ってお弁当を広げる。エースくんは私の隣りに座って、購買部で手に入れた大量のパンを置く。
「それにしても、今の世の中は便利になったよな!前と大違いだ」
前と、と言われても覚えていない私からしたら想像もつかない。少なからず興味はある。
「どんな時代を生きてたの?江戸時代とか?あっ、まさか縄文時代?」
便利じゃない世の中とはそのくらいの時代かと思って聞いてみる。まぁ今に比べたらいつだって不便な過去だろうけど。
そうだったな、とエースくんはパンの袋を開けてかじり付きながら答える。一口が大きいな。
「大海賊時代っつーの?俺達、海賊だったんだぜ」
「か、海賊?」
平凡に生きてきたつもりの私がまさかの海賊。そんな前世があったとは予想外にもほどがある。
「オヤジ…あ、本当の父親じゃなくて船長な。オヤジをすっげー尊敬しててさ、絶対海賊王にしてやりてェって思ったんだよな」
「か、海賊王…」
なんだかスケールの大きい話になってきた気がする。
海賊王って何だ。海賊のトップみたいな人だろうか。
喜々と話すエースくんに相づちを打ちながら、聞き入る。
「じゃあさ、自分の最期とか覚えてる?」
「…まァな。海軍に捕まっちまってな、処刑されかけた」
「…え、」
処刑。そのイメージとしては首をギッチョンする物が浮かんだ。いざ自分がその立場になったら、恐怖のあまり泣き叫んでしまうだろう。思っていた以上にエースくんは厳しい時代を生き抜いていたようだ。
「でも、されかけたって事は処刑されなかったの?」
「俺の家族と、弟が助けに来てくれたからな」
ふ、とそこでエースくんは私を優しい眼差しで見つめる。
そして愛おしそうに私の頭を撫でる。
「名前も助けに来てくれた。すっげー嬉しかった」
「じゃあ、生き延びたんじゃ」
「でも、弟を庇って俺は死んじまった」
「…」
「弟を庇った事は後悔してない。ただ、最後にお前の姿が頭に浮かんだ。名前に会えないまま逝くのかって思ったな」
私を撫でていた手が少し震えているのが分かる。私はそっとエースくんの手に自分の手を重ねる。
大丈夫。私はエースくんの傍にいるよ。
「自分の運命は受け入れてるつもりだった。けど、死にたく、なかった」
罪悪感とそれでも生きたいという欲望に挟まれ、運命だと自分自身に言い聞かせながらも想いが膨らんで、どうしようもなく絞り出すように吐き出された言葉。まるで懺悔するみたいに「死にたくなかった」と告げたこの人は、どんな想いで今までを生きてきたのだろう。
「オヤジもルフィも、俺を愛してくれた」
エースくんは私の手を両手で包んで、胸の前へと持ってくる。触れた手の温もりが、生きている事を実感しているようで安堵した。
「名前、お前も俺を愛してくれた。ありがとう」
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