いたい人の扱い

エースと呼ばれる彼に連れ出され、ここじゃ話しにくいからと教室を出た。
その時のなっちゃんの満面の笑みときたら。あれは話し終わった後に問いただすつもりの顔だ。怖い。

エースくんの後ろを付いて歩き、屋上へ続く階段を上がる。屋上に行くのは初めてかもしれない。
移動している間、お互い無言で少し気まずい。前にいる彼を見つめてみる。これは、やっぱり告白なんだろうか。
今更ながらに緊張してきて、前へと動かす足が少し震えた。

屋上への扉を開けるとふわりと風が頬を撫でる。青空晴れた良い天気だ。
エースくんの後に続いて屋上に入り、バタンと扉を閉める。
辺りには誰もいなくて、エースくんと二人きりになった。

エースくんはくるりと振り返って私と向き合う。少し不安気な表情をしている。

「俺の事、分かるか?」
「えっと、エースくん?だよね」

本名は分からないが、周りからそう呼ばれているのを思い出して言ってみる。
すると彼は、不安気な表情から一気に笑顔へと変わった。思っていたより表情豊かなようだ。

「良かった、俺の事覚えてたんだな!名前はそのままだったからすぐに分かったぜ!」

笑顔のまま、自信満々に言う彼に疑問を感じた。
覚えてる?何を?
思えば、さっきの聞き方も変だった。「知ってるか」じゃなくて「分かるか」
まるで、以前に知り合っているような聞き方だった。
それとも、私の覚えていないところで彼に何かしてしまったのか。
考えても思い出そうとしても記憶には彼の存在なんてこれっぽっちもない。

「ごめん、覚えてるって何を?」

正直に彼にそう言えば、一瞬驚いたような顔をした後に、そうかと肩を落としたのがあからさまに分かった。

「俺ら恋人だったんだけど、」
「…はい?」

突然言い出した彼の言葉に着いていけなかった。
恋人?いや、だってまともに話したの今が初めてですよね?
私の不信そうな雰囲気を感じ取ったのか、彼は慌てて次の言葉を繋ぐ。

「あっ、今じゃないぜ!前世っつーの?今の俺らが産まれる前!」

笑顔で彼は何を言っているんだろうか。
あれか、痛い人ってやつなのか。そんなものに巻き込まれても困るんだけどどうしよう。

「だから名前を見付けた時は運命だって思ったんだよな!」

これは新手のナンパか罰ゲームなのか。
どう乗り切ろうかと考えていると、エースくんはズイっと距離を縮めてきて思わず一歩後ろに下がった。

「俺、今も名前が好きだ」
「え、」
「だから、付き合うっつーか、前みたいに一緒にいたいんだけど」
「えっと、ごめんなさい」

エースくんの顔は、断られるわけがないという自信満々だった表情から一変して目を見開くほどに驚いている。
いや、その断られないっていう自信はどこからくるの。

「だって私好きじゃない人と付き合うとか出来ないし…」
「前はあんなに俺に好きって言ってたくせに」
「いやいや、覚えてないし知らないからね?」

落胆した彼は、ふぅと溜め息を吐いて気合を入れたように私をまっすぐに見つめた。とても真剣な顔に思わずドキッとしてしまう。

「名前が忘れたなら、何度だって振り向かせてやる。毎日好きだって言ってやる」

だから覚悟しとけ、最後にそう言い残して屋上を去っていった。
確かに想像していた通り告白だったけど、何かが違う。
困惑したまま青い空を見上げる。笑われているような錯覚を起こした。



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