あつい視線と影
まただ。
今日も熱い視線をひしひしと感じる。ふ、と横目で原因の先を辿る。
教室のドアにいる男子生徒が私をじっと見つめる。
少し跳ねた黒髪、まだ頬に残るあどけないニキビ。
彼に見覚えはあるが、この高校三年間を思い返してみても、同じクラスになったことはないし関わったことも、まして会話したことすらない。
せいぜい廊下ですれ違ったことがある程度だ。
彼の本名は知らないが確かエースというあだ名が付いており、彼を呼ぶ時は皆エースと呼ぶのは知っていた。
知っていることはそれくらいで、私は彼を全く知らないのだ。
それなのに、彼は何故私を見てくるのだろう。正直怖い。
私が何かやってしまったのか?
いや、一度も話した記憶すらないのに何をやったというのか。
ますます疑問が増えるばかりだ。
「ねぇ、なっちゃん」
「どうしたのよ名前」
私は友達のなっちゃんにその事を相談してみる。
するとなっちゃんはニヤリと笑って頬杖をついた。
「あんたエースに好かれてるんじゃないのー?」
「いやいや、話した事もないのにあり得ないって」
「あら、一目惚れっていう言葉もあるじゃない」
「えー…」
そんなまさか。
私なんかに一目惚れする奴がいたら見てみたいものだ。
私はなっちゃんみたいに綺麗じゃないし、胸は大きくないし。私のどこがいいのやら。
そうなっちゃんに言えば、名前は可愛いじゃない!それに素直だし!と言ってくれた。
「なぁ、少しいいか?」
私となっちゃんの元に出来た影。
見上げれば、先程まで話の中心となっていたニキビの彼だった。
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