feel dizzy



ニューラを木の根元に降ろして、落ちてる木の実をニューラへと持っていく。弱々しくも笑ってみせる彼に胸が傷んだ。敵のニューラと戦う時、私を庇いながら戦っていた事を知っている。どうしてこんなにも私に尽くしてくれるんだろう。私が心配だからと言うけれども、まだ会って間もないのに。こんなに優しくしてくれるニューラと触れ合って、初めて心が温かくなるのを感じた。

ニューラの近くへと腰を降ろし、お互い静かに木の実を食べ始めた。すると気まずそうにニューラはポツリと言葉を発する。

「さっきは悪かったな」
「え?」
「人と暮らすポケモンってのは、人間の指示に従わなきゃ捨てられるんだろ。そりゃあ自分の意思で戦えなくもなるな」
「それは、」

世の中にはそういう人間もポケモンもいるかもしれない。けれど私はそうじゃなくて、戦うバトルする事もなくすぐに逃がされただけだ。どうやらニューラは勘違いしているようだったが、訂正するのも面倒だったのでそのままにしておく事にした。

「でも、グレイシアもやれば出来るじゃん。見直したぜ」

まっすぐな笑顔で褒められた事が恥ずかしくなって、ニューラから目を逸らした。誰かに褒められたのは初めてだった。自分がここにいても良いような安心感を感じた。
ニューラと同じように私も木の実を食べていたが、それでもなかなか体力が回復しない。食べる気力も正直ない。後ろにニューラがいる事を確認して、大丈夫だろうと少し睡眠を取る事にした。



充分に眠ったあと、ぼんやりと瞼を開けた。寝る前は夕焼けがかった空だったが、今は朝日が登っている。体力もある程度回復出来ているし、もう大丈夫そうだ。そこで嫌な違和感を感じた。振り返ってみて、ぐるりと周りを見渡す。そこには私以外誰もいなかった。

どうしてニューラがいなくなってしまったのか。ここの他に行く場所なんて見当もつかない。
一緒にいるって言ったくせに、ニューラはいなくなった。私が弱かったから邪魔だと思ったの?確かに集団のニューラを一匹倒せたけど、あれはその前にニューラが既にダメージを与えてくれていたからの結果だ。私一人だけでは倒せていなかった。実際にバトルを見て幻滅されたのかな。やっぱり、私は役に立たないポケモンかな。必要じゃなかったから、ニューラにも見捨てられたのかな。どうしようもない不安に押しつぶされそうだった。
待ってよ、一人にしないでよ。

「…ニューラ」
「呼んだ?」

その返ってきた声に驚いて、辺りを見渡すが先程と同じように誰もいない。すると少し遠くの木の上からひょいひょいと動く黒い塊を見付けた。それは木から木へと軽々と飛び移って、私の前にすとんと降り立った。その事に驚いてじっとニューラを見ていると、ニューラは心配そうに私の顔を覗き込んだ。

「ん?どうした、まだどっか痛いか?」
「…どこに行ってたの?」
「ああ、これ取りに行ってた」

そう言ってニューラは手に持っている黄色の木の実を差し出した。

「これオボンの実なんだけどな、よく体力回復出来るやつだから」

元気そうなニューラの姿を見て、くたりと力が抜けた。私を見捨てたわけじゃなかったんだ。不安から解放された安堵感と同時に、ニューラに対する苛立ちが膨れあがった。

「…なんで、」
「ん?」
「一緒にいるって言ったくせに、なんで勝手にどこか行くのよ!私を一人にしないでよ…」
「…ごめんな」

ニューラは困ったように笑いながら私の頭を撫でる。その心地良いぬくもりが懐かしさを呼び起こす。ニューラに触れられたところからじんわりと温もりが広がっていく。そしてそれは心にまで広がり、さっきまでの苛立ちもすっと溶けていった。この温かさは何だっけ。

「そういうのさ、無理しなくてもいいよ」
「え、」
「泣きたい時くらい泣けよ」

今まで、泣きそうになることが何度もあった。泣いたって現状は変わらないし、人前で泣くのはみっともない行為だと諦念混じりに思っていた。誰からも認められないような気がして、自分の存在意義を見失った。
そんな中突然現れたニューラ。彼だけが私を認めてくれた。ここにいても良いと言われているような気がした。その事が何よりも嬉しかった。

「いつでも俺が受け止めてやるからさ」
「…ありがとう」
「やっぱりグレイシアには俺がいないとダメだな」

そう言っていつものように笑うニューラはゆっくりと私へと寄りかかる。初めの頃は戸惑いもあったし、少なからず嫌悪感もあったはずなのに今ではどうだ。
いつの間にかニューラがいないと不安で仕方なくなる。これはニューラのせいだ。口癖のように「お前には俺がいないとな」と得意気に繰り返す。まるでそれが、私に暗示をかけているように思えた。そしてまんまとニューラの策略にはまるように、するすると見事に落ちてしまった。一人で生きていこうと意気込んだのに、いとも簡単にそれを崩していく。まったく、ニューラはなんて奴だ。

お互い体温は高くないが、ニューラと寄り添う体温が心地よかった。堰を切ったように涙が次から次へと溢れてくる。そんな私の姿をニューラは優しい眼差しで見守ってくれていた。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -