a bruise



辺り一面の銀世界に立ち尽くす。これから私はどうしたらいいのだろう。ずっと人間と生きていくものだと思っていた。進化して、これから強くなって一緒に生きていけると思ってたのに。私が弱いから捨てられたのかな。私は、必要とされてなかったのかな。私強くなるから、弱音だって吐かないから。だから、だから。もういなくなった人間に心の中で懇願する。お願いだから、置いて行かないで。

不安に押しつぶされそうになっていた時に、突然誰かに声を掛けられた。ニューラと名乗った彼は、私を心配して助けようとしてくれている。そんなにも私は頼りなく見えたのか。私が、弱く見えたのか。そんな彼の態度に苛立った。それを認めてしまえば、自分は要らないポケモンだと言われているように思えた。

一睨みしてニューラに素っ気ない態度を取れば、すんなりと彼は離れていく。きっともうこの現状は変わらない。それなら、強くならなくちゃ。自分自身を奮い立たせて前を向く。
1人で生きていくしかないんだ。その為には、寝床と食料の確保をしておきたい。ひとまず辺りを把握しておこう。ここがどこかも、どこに行ったらいいのかも分からない。ニューラが行った方向には何だか躊躇いが出てしまったので、その正反対の方向へと進んだ。

しかし進んでも進んでも雪一面とそれが積もる木々しか見えない。寝床は木々の根本に身を隠せそうな場所がよくあるので心配いらない。
問題は食料だ。今までのご飯と言えば、箱からカラカラと出されたポケモンフードだった。たまにポフィンという焼き菓子のような物も食べたが、そんな物がここにあるわけがない。フードやポフィン以外に何を食べていいのかすら分からなかった。

私は木の根元に生えていたキノコを見つけ、近寄ってみた。これは食べる事が出来るのかな。鼻先をキノコに近付けてスンスンと鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。少しピリピリするような刺激臭に思わず顔をそむけた。これは食べられない。

ため息しか出ないこの状況。また辺りを探していると、木の奥からユキカブリとユキノオーが私に近付いてくるのが分かった。
もしかしてあのユキカブリは、私がイーブイからグレイシアに進化する時に倒したユキカブリなのかな。だからユキノオーを復讐として連れて来たのかも。そう考えると、恐怖で足が震えた。今の私は、ユキノオーどころかユキカブリすら倒せない。というか、経験値を貰う時はすぐにモンスターボールに戻った為に誰かと戦った事すらない。

「あれ、どうしたの?何か困ってるの?」

すぐに逃げるべきかと思っていたが、ユキカブリからは憎しみの感情もなく平然として話し掛けられた。なんだ、あの時と違うユキカブリかと少し安心した。けれど同時に、新たに嫌悪感も膨れ上がる。
また同情された。ニューラと同じように。

「別に貴方達には関係ないから放っておいて」

最初にユキカブリ達を睨み、一定に距離を保つ。すると私の返答に苛立ったのか、ユキカブリはムッとした表情に変わった。

「僕、君みたいなやつ嫌い」
「貴方に好かれたいとも思わないから安心して」
「何それ」

ユキカブリは苛立ったまま、私へと一気に距離を詰めてきた。その右手は光っているように見え、嫌な予感がした。とっさに体毛を固く尖らせる。その瞬間にユキカブリから繰り出されたウッドハンマーが私へと直撃した。体毛を固くしたって、私の防御力では防ぎきれない。そのまま私は殴られた方向へと飛ばれてていった。

「ここは僕達の場所だ。どっか行ってよ」

そう言うユキカブリの冷たい瞳は、あの人間の瞳にどこか似ていた。私を煩わしいと思う瞳。そのユキカブリの視線に耐えられず、起き上がって駆け足で離れる。初めて傷ついた身体よりも、その何倍も心が痛くなった。

少し離れた先、木が生い茂った根本に私は身を隠した。今は少し休みたい。トレーナーに見放されるし、攻撃されるし、食べる物も見つからないし。今日は散々だ。今日は、というより私の人生が、と言った方が正しいのかな。涙が零れそうになったが、ぐっと堪えた。強くならなくちゃ。休んで体力回復させよう。自分が思っていた以上に疲労していたようで、目を瞑って身体を丸めると、あっという間に眠りに落ちた。




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