rapid pulse



腹減ったな。木の実を取ってくるか、それとも他のポケモンから食べるものを貰うか奪ってくるか。どうしようかと考えながら歩いていると、いつもと違うものに気が付いた。
まるで硝子のように澄んでいて、しっかり見ていないと消えてしまいそうなポケモン。俺と違って、綺麗で儚げなそいつに目を奪われた。あんな奴はまず野生で見掛けた事がない。そういう場合は大抵近くに人間がいるもんだが、周りを見渡してもそれらしき人間はいない。人間とはぐれたのかと一瞬思ったが、それは違うと彼女の表情を見て否定した。あれはトレーナーを探す顔じゃない、戸惑って全てを諦めているような顔だ。そんな彼女に興味が湧いて近付いてみる。

「よう。お前見ない顔だな」

彼女に声を掛けてみると、驚いたように小さく肩が跳ねた。そして恐る恐る俺へと顔を向けた。少し威嚇しているように見えるが、不安が滲み出ているのを隠しきれていない。何か訳がありそうだ。

「人間とはぐれたのか?この近くに人間は来なかったと思うぜ?」

彼女は俺を睨んだまま何も答えない。睨んだところで、人相の悪さは俺の方が勝っている。そんなの俺には何の効果もない。

「あ、俺ニューラ。この辺で暮らしてるから、手伝える事あったら手を貸すぜ」
「…別に。ほっといてよ」
「なんだよ、可愛くねー奴」

せっかく声かけてやったのに何だその態度。綺麗な奴だと思ったのに、性格が捻くれてる。なんとも残念な奴だと思ってそいつから離れた。ほっとけって言われたなら無理に構う必要もない。

もしかして、あいつは人間に捨てられたんじゃないだろうか。素直じゃなくてあんなに捻くれてる性格の奴なんて、人間だってお断りだろう。トレーナーという奴は、主人に従順なポケモンを好むと聞いた事がある。それなら俺は一生野生のままでいい。人間なんてこっちからお断りだ。

俺は最後に気になって、小さくなった彼女をチラリと見る。最初に見たような、儚げで今にも消えてしまいそうな姿。俺は生まれてこの方、野生でしか生きた事がないから彼女の気持ちなんて全く分からない。トレーナーに解放されて自由になれるなら、そっちの方がよっぽど良いだろうに。

さて食べ物をどうするかと雪道を歩く。いつもと違う深い森の中を歩いていると、木の実が生い茂るひらけた場所に出た。珍しく誰にも木の実を取られてないこの場所は誰も知らないんじゃないか。他の木の実の生る場所は大抵他のポケモンにも取られて少なくなっている。けれど、ここにはオレンの実、クラボの実、モモンの実、他にも様々な木の実がこんなにも生っている。そんな場所は本当に珍しい。俺だけの秘密の場所を見付けた気分になり、気持ちが高まった。

オレンの実をお腹が満たされるくらいに食べ、少し休んでから住処に帰ろうと来た道を戻っていく。その帰り道で、ユキカブリとユキノオーに出会った。俺は他のニューラ達よりもユキカブリやユキノオー、他のポケモン達との方が親しかった。

俺は他のニューラと比べて闘争心があまり無い。楽に生きられるならその方が良い。戦う事は苦手じゃないが、好きでもない。余計な争い事をするのが面倒だった。しかし仲間のニューラ達は、そんな俺を気味悪がって仲間から弾いた。
別に寂しくはなかった。仲間がいなくたって、他のポケモン達は俺が危害を加えなければそれなりに親切にしてくれる。自由気ままに生きる事が出来るし、それが苦になる事はなかった。

俺はユキカブリ達に軽く挨拶をすると、ユキカブリが俺に気付いてテンション高く近寄ってきた。ユキノオーはその後ろでずっしりと構えている。

「あ、ニューラ!ちょっと聞いてよ!」
「どうしたんだ?」
「さっき生意気で見慣れない奴がいたんだ!」

きっとあの綺麗で儚げなポケモンの事だろう。木の実の事で頭がいっぱいになり、彼女の事が頭から抜けていたがそういや居たな。すっかり忘れていた。

「ああ、青い奴?俺も見たぜ」
「ニューラも?少しあいつと話したんだけどね、僕あいつ嫌い。どっか行けばいいのに」
「何か言われたのか?」
「困ってるみたいだったからどうしたの?って話し掛けただけなのに、関わらないで、放っておいて、だってさ。僕らの生息地に勝手に来たくせに、その態度はないんじゃない!?」

俺と同じ態度をされている事に思わず笑いが出た。あいつ、誰に対しても捻くれてんのかよ。そりゃあ捨てられて当然だ。いや、本当に捨てられたかなんて知りもしないけど。俺にとってはどうでもいい事だ。

「むかついたから思わず攻撃しちゃったんだけど、すんなり逃げていったんだよね」

いい気味!と立腹気味のユキカブリに、ふーんと生返事をしてユキカブリとユキノオーと別れた。
あいつ、強そうに見えなったけど大丈夫なんだろうか。ユキカブリは全くダメージを受けているように見えないから、一方的にやられたんだろうな。可哀想に。

俺は来た道を引き返して深い森の中へ戻る。そしてオレンの実を3つほど取って、森から雪原へと出ていく。最初に彼女と出会った場所に行ってみるが、目標物が見当たらない。どこだ、と目を凝らして遠い場所にも目を向ける。すると少し遠い場所にある、木が重なり合うその根本に彼女を見付ける事が出来た。
なるほど、あそこなら木の茂みもあって簡単には見付からないだろうな。俺みたいに探してる奴がいたら別だろうけど。

彼女の元へゆっくりと忍び寄る。不意打ち攻撃は得意でもあるので、気付かれずに静かに近寄る事は簡単だった。そして彼女がよく見える所まで近付くと、彼女は木の根の間に隠れるようにして休んでいた。その身体は最初に会った時にはなかった傷がある。やっぱりユキカブリにやられてたか。気になって様子を見に来て良かった。
俺は寝ている彼女の元にオレンの実を置いて、そっと去った。




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