a dull pain



出てこいイーブイ、と言われながらボールから飛び出した外の世界。
タマゴから孵ってあまり外には出してもらえなかったから、久々に見る外の世界が新鮮に見えた。

初めて見たその場所は、少し薄暗い洞窟の中。少し寒い。
そして私を見下ろす目の前のトレーナーを見上げる。…あれ?私のトレーナー、こんな人だっけ?部屋の中でご飯をくれたりお世話をしてくれた人とは違うような気がした。あまり外に出してもらえなかったからよく覚えていない。
…いや、タマゴから孵って今日までそんなに経ってないから覚えきれてないだけかもしれない。
けど、私を撫でてくれた柔らかくて温かいあの手のひらの感触はよく覚えている。

「お前はこれからグレイシアに進化するんだ。だからここで強くしなきゃならない」

そう言った目の前のトレーナーは、私をあまり見ずに洞窟から出て吹雪いている雪道へと足を進める。野生のポケモンを探して、私とバトルさせるんだろう。けど、私は野生のポケモンを倒せるほどのレベルはない。

深い雪道を歩いていると、野生のユキカブリと遭遇してすぐさまバトルを始める。最初に私がユキカブリの前に出るけど、あっという間にモンスターボールの中へ仕舞われてしまう。
どうやら、他の強い手持ちポケモンと交換してユキカブリを倒しているようだった。そうしてユキカブリを倒したうちの半分の経験値が私にも入ってきた。私はまだ弱いから、その少ない経験値でも私には充分である程の経験値だった。

そして同じように野生のポケモンとのバトルを2回繰り返すと、身体の中から熱くなっていくのを感じた。

「…ヒョオ、」

見事に私はグレイシアへと進化を遂げた。
鳴き声だってイーブイの時より澄んだ声だし、前よりも強くなれたはずだ。
これで、また撫でてもらえるだろうか。

期待を含んだ目でトレーナーを見上げる。
しかしトレーナーは特に喜ぶ様子もなく、図鑑を手にして私にそれを向ける。


グレイシア しんせつポケモン
ぜんしんの たいもうを こおらせて ハリのように するどく とがらせる。 てきから みを まもる しゅだん

図鑑から音声が流れ、登録された事を確認するとトレーナーは図鑑をパタリと閉じて、私をじろりと見た。
私を見てほしい、と思っていたけれど違う。こんな感情のない冷たい目で見られたくなかった。

「図鑑埋まったからいいけど、俺グレイシアってあんまり好きじゃないんだよね。弱いし。もうお前はこおりタイプだし、この雪原は過ごしやすいだろ?自由に暮らせよ」

呆気に取られ、数秒固まってしまった。この人は何を言っているの?そんな急に知らない地に来て、普通に暮らせるわけがない。野生で過ごしたことなんてないし、仲間なんていない。だって、私は野生で存在するはずがない異質な存在。加えて普通の生き方すら知らない。
それなのに、私を置いて行ってしまうの?私は、必要のない存在なの?

前を歩くトレーナーはじゃあな、と私を一瞥もせずに踵を返して去っていく。
その手はもう私に触れてくれない。




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