短編 | ナノ
▼ 月見鳥

私の住んでいるこの国に、白ひげ海賊団がやってきたのは一週間前の事だった。その日は夜風に当たりたくて、私は海が見える丘の上に登って夜空を見上げていた。

「ここ、良い眺めだな」

私しか居なかった場所に、丘を登ってきて突然現れた人。見た事が無い人だ。今日来たという海賊の人か。彼は私に危害を加える様子は無いようだ。散歩がてらに景色を見に来た、という立ち振る舞いをしている。何故だろう、私は彼から目を離す事が出来なかった。彼は私の傍に近寄ると鼓動が更に高鳴った。ああ、そうか。これはきっと。

「…今日は月が綺麗だな」
「そうですね。…この国にある有名な本の和訳の話を知っていますか?」
「知ってるよい」

この国は本が栄えてるから嫌でも目に付く、と苦笑混じりに彼は呟いた。

「では、それは遠まわしの告白ですか?」
「生憎だが俺は、気持ちは直接伝える派でな」
「じゃあ告白待ってますね。…なんて、冗談ですよ」

私はくすくすと笑いを零した。初めて会った彼に私は何を言ってるんだろう。ほんの軽い冗談のつもりだったのに、彼からの答えは思ってもいないものだった。

「わかったよい。楽しみに待ってろ」

そう言うと、彼は私に背を向けて丘を降りて行った。私は無意識に彼の背中を居なくなるまで目で追いかけた。

きっと、私は彼に惹かれていた。

あれから一度も彼に会う事はなかった。そして彼は今日この国を離れるらしい。街の人達がそう話していたのを小耳に挟んだ。

そして私は今日も丘へと赴いた。今日は満月だ。月を綺麗だと言った彼。彼も私と同じように月を見上げているだろうか。月を見て、彼も私の事を思い出してくれているだろうか。
そんな淡い希望を抱いてみるが、有り得ないだろう。それはあまりにも図々しい考えだ。
冗談で伝えた中に少し本音を混ぜた言葉。その意図は彼に伝わっていたのか今じゃもう分からない。
すると、どこからか青い炎を纏う鳥が現れた。綺麗な色をしている。ぼんやりとその鳥に見とれていると、その鳥は私の前に降り立つと人の姿に変わっていく。

「…え」

それは私がもう一度会いたいと思っていた人だった。何故彼がここに居るの。

「待たせたな。迎えに来たよい」
「なんで、」
「悪いがお前を攫っていく。欲しいモンは奪っていくのが海賊なんでねい」
「…私なんかで、いいの?」
「一目惚れだったが、お前に惚れた事に変わりはないんでな」

彼との距離が縮まっていく。
そしてゆっくりと彼に包まれる。
彼の肩越しに、一面の星空の中に輝く月が目に入った。

「…月が、綺麗ですね」
「あァ、そうだな。愛してるよい」
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