短編 | ナノ
▼ 君に全力投球

物覚えがついた頃からスモーカーとずっと一緒だった。
生まれも育ちも同じ村で、よく一緒に遊んでいた。遊ぶといっても、私がスモーカーに引っ付いて後ろを着いていくのがほとんどだった。スモーカーは要領がよくて力も強くて、喧嘩だってもちろん強くて私が勝つ事は一度もなかった。そんな彼が、海軍に入るというのを聞いて私も入る事にした。
彼の隣りに並びたい。
純粋にそう思った。彼の背中ばかりを見て育ったから、その気持ちは尚更だ。しかし現実は甘い物ではなかった。スモーカーは実力が認められてどんどん昇進していくのに対して、私はようやく大尉になれたばかりだ。
そして彼と私は上司と部下という関係になった。少し複雑な気分だ。隣りに並ぶ、なんて事は夢のまた夢かもしれない。少し彼が遠く感じるようになった。

「失礼します。スモーカー准将、昨日の討伐の報告書と始末書です」
「あァ」

ノックを一度してから彼の部屋に入る。書類を彼に渡すと、スモーカーはざっと目を通す。すると彼は少し眉間に皺を寄せた。今はあまり彼に会いたくない。早く退室しよう。
そう思い声をかけようとすると、彼が先に言葉を発した。

「お前1週間前の怪我はどうした」
「…何の事でしょう」
「俺の記憶が正しけりゃ、1週間前の討伐でお前が怪我して1ヶ月安静にしなきゃならねェって医者に言われてただろ」

ほらきた。
だから長居はしたくなかったんだ。

「スモーカー准将の記憶違いではないですか?」
「とぼけんな。んで俺はお前に仕事はデスクワークだけしろっつったはずだが。それとお前が敬語とか気持ち悪ィ」

スモーカーにごまかしは効かない。小さな頃から、私の嘘は全て見破られるんだ。

「酷い。せっかく敬ってあげてたのに」
「で、なんで無視して討伐した」
「目の前に海賊がいたら捕まえるのが道理でしょ?」

早く強くなりたい。彼と並んでもおかしくないくらいの力が欲しい。そう思って努力をしてみても、差が開いていく一方だ。スモーカーは私をしばらく見てからハァ、と溜め息を吐いた。

「無茶ばっかしやがって」

スモーカーの手が私に伸びてきた。殴られるのだろうか。これは怒られて当然だ。痛いのは嫌なんだけどなぁ。仕方ないか。

「…心配かけんな」

ポフ、と頭に暖かい感覚がする。彼に頭を撫でられるのは何年振りだろうか。てっきり怒られるのだと思っていたから、呆気に取られた表情でスモーカーを見る。

「待っててやるから、早く追いついてこい」

やっぱり彼にごまかしなんて効かない。私の気持ちを見透かされているんだ。いつだって彼は私の一歩先を行くのだ。

「全力で追いつくから」

隣りに並んでもおかしくないくらい強くなったら、好きだって伝えるから。
ニヤリと笑う彼には真意が分かってるのだろう。葉巻の煙がふわりと舞って空気に溶けた。
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