短編 | ナノ
▼ おきみやげ

僕の炎は他のほのおポケモンの炎と違う。
明るくない炎。
薄暗い、落ち着かない色合い。
人の生命を奪う炎。
けれど、放つ炎は明るく眩しい。

火灯し。

人間に目掛けて火を放つ。ぐるり。
ゆっくりと炎が人間を包む。燃える。燃える。
暖かくて、悲しい炎の色。これが僕の生きる術。
ごめんね、ありがとう。
いつからか、僕は周りからこう呼ばれるようになった。

人燃し。

僕は哀しきヒトモシ。
そんな生き方だったのに。

ある日出会った一人の人間。
いつものように生命力を奪おうとした。
火を放とうとした瞬間、その人間が振り返って目が合った。

ぴたり。

お互いの動きが止まって見つめ合う。
僕は人間に攻撃する事が出来なかった。
何故だろう。こんな事は今までで初めてだ。

じっと目を見ていると、少し分かったような気がした。
この人間、哀しい目をしている。
僕と同じように。

ゆっくりと人間に近付く。
人間は僕から離れることなく、そのまま距離が縮まる。

「貴方、1人?私も1人なの。…独り、なの」

消えそうなほど小さくて澄んだ声だった。
人間の話を聞くのは初めてかもしれない。

「私、名前っていうの。良ければ一緒に来ない?」

名前と名乗った人間は寂しそうに笑みを浮かべたが、なんだか消えてしまいそうで不安だと感じた。
僕、まだ何もしていないのに。
不思議な人間だ。

まるで僕自身を見ているようで、悲しくなった。
寂しそう。ああ、僕も寂しいのか。
そんな感情を意識した途端、全てが嫌になって名前に着いていく事を決めた。

名前はとても優しい人間だった。
自分のことより僕のことを第一に想ってくれる。
名前と過ごす日常が楽しくて、幸せで。僕を撫でてくれる名前の暖かい手が何よりも大好きだった。

「ヒトモシ、最近元気がないね?」

名前と一緒に過ごすようになって数ヶ月。
僕の身体はだんだんと小さくなって、動くのもキツくなった。

僕は人間の生命力を吸って生きていくポケモン。

いつからだろう、名前が大切だと思うようになったのは。
ずっと生きていてほしい。
そう思うと名前の生命力なんて吸えなかった。

そうしてしまうと、どうなるかなんて分かる。
分かるけど、それ以上に名前が大好きだった。

自身の炎がどんどん小さくなっていくのを感じる。
ああ、そろそろかな、なんて客観的に考えてしまう。

最期に名前といられて幸せだった。
名前に出会えて良かった。

笑顔でお別れしたいのに、名前は泣き虫だ。
そんな泣き顔に、何故だか安心して笑えた僕がいた。
ごめんね、ありがとう。


明るく照らしていた灯が消えた。
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