短編 | ナノ
▼ 僕と君的条約

午後の授業ほど眠い時間はない。
うつらうつらとなりながらも、何とか起きようと必死で黒板を書き写す。うわ、字が歪んだ。
アイツ寝てやがる、そう隣りでぼそりと呟いた声が聞こえた。

「おい、沢村に寝たら報告するぞって伝えてくれ」
「あ、うん」

隣りの席の金丸くんに言われ、沢村くんの席の方を向く。
潔いくらいに爆睡してる。私は必死に寝ないようにしていたというのに。
沢村くんまでは距離があるから 、近い子に回してもらおう。
私と沢村くんの間にいる女子に伝言を頼む。

伝言が沢村くんに届いた途端、寝ていた沢村くんは急に起き出した。
教科書が上下逆というか、裏表逆というか…そんなに怖いのか。

その瞬間、金丸くんは超不適な笑みを浮かべる。

「うわ、金丸くんってS…」
「何だと?」

あ、やば。独り言のように呟いたつもりだったのに本人に聞こえてしまったようだ。
私は気まずくなり必死に視線を教科書へと移す。
けれど金丸くんはずっとこっちを向いている。
殺気が混じった視線で泣きそうになる。
眠気なんてぶっ飛んでしまった。いっそ戻って来て欲しい。

授業が終わり、逃げようと席を立とうとしたが、それよりも速く金丸くんは私の前に仁王立ちをする。

「おい名字。さっきの事はどういう事か、詳しく教えてほしいもんだなぁ?」
「は、はは…」

場をごまかそうとして、乾いた笑いをこぼす。
それだよ、それ!と言えるほど私の度胸はない。

「ちょっとトイレ、」
「あ?」
「何でもないです」

ビビりな私の逃走は失敗。
思い切って席を立とうとした瞬間に、金丸くんが私の机に片手をバンッ、と置いてきた。
これじゃ、逃げられない。

「いやー、野球部の合宿大変そうだね」

この場を何とかしなければ。
空気が痛いのは耐えられない。
無理矢理ではあるが話を逸らしてみた。

「他人事だな」
「頑張ってるよね。私、野球好きだよ」
「そーかよ。名字、練習試合観に来た事ねぇくせに」

何故私が練習試合を観に行ってない事を知ってるの…。
内心冷や汗をかきつつも、笑顔を崩さすに会話に集中する。

「こ、公式試合は観に行ったし!甲子園行くの、楽しみにしてるからね!」
「今年は先輩らが居るから甲子園行くだろ。…まぁ再来年、いや、来年は俺が活躍するから観に来いよな」
「うん、金丸くんを応援しに行くね」

そう言うと金丸くんは一瞬驚いた表情をした後にふと笑みを浮かべた。

「俺を…ね。頼んだぜ」

最初に見せた不敵な笑みじゃなくて、楽しそうな笑顔。
そんな風に笑う金丸くんの方が好きだなぁ、と思ったけどこれはまだ言わない事にする。

また、いつか。
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