短編 | ナノ
▼ 難攻不落

「名前さん!ちゃんと返事ください!」

俺は名前さんの腕を引っ張って、壁に押し付けた。そして俺は名前さんの両側に手を突く。もう逃がすものかと彼女の行く手を阻んだ。

俺が名前さんに好きだと告げたのは一週間前だ。ボーダーエンジニアとして働く名前さんに惚れて、ようやく告白をした。ロマンチックなシチュエーションなんかじゃなかったけど、誰もいない場所で真剣に好きだと伝えた。

「悪いけど仕事残ってるから」

そう彼女は言い残すと、呆気にとられる俺を置いてさっさと仕事に戻っていってしまった。せめて返事くらいしてくれたっていいじゃないか。綺麗に笑う名前さんはこんな時だって余裕に振舞う。

もしかしてこれは脈がないのか?返事すらするに値しないって事なのか。俺は重いため息を吐いた。こんな今の姿を木虎なんかに見られたらウザがられそう。仕方ないじゃないか。好きな人に告白したら返事以前の問題だったんだぞ。

じめじめとマイナスオーラ全開でうずくまっていると、ふと一つの考えが浮かんだ。名前さんは仕事が残ってると言っていた。なら、仕事が終わったら返事をくれるのか?エンジニアと防衛隊員の業務時間は違ってるから、いつ終わるのかは正直分からないけれど休憩くらいはあるだろう。
今までだって休憩中に廊下ですれ違った事だってあるし、一緒にお茶をした事だってある。明日改めて返事を聞きにいこうと俺は勢いよく立ち上がって意気込んだ。勢いをつけ過ぎて頭を壁にぶつけた。痛くて思わず涙が出た。

そうして名前さんに会おうと意気込んだはいいが、それ以降ぱったりと名前さんを見掛ける事が無くなった。俺も広報や防衛任務が入っていたとはいえ、ここまで会わないのは流石におかしい。

もしかして、俺は避けられているのか。あの告白はやっぱり迷惑だったのだろうか。気持ち悪かったから、俺を避けてる?いやいや、名前さんなら迷惑であっても直接俺に言いに来るはず。それとも、俺に会うのが恥ずかしくなってる…いや、名前さんの性格的にそれはないな。とりあえず名前さんを見掛けたら返事を問いただそう。そう決め込んで、次に彼女を見掛けたのはそれから一週間後だった。

「今日こそ逃がしませんよ!」
「もう壁ドンとか古くない?」
「今そういう話をしてるんじゃないんです!」

俺は必死に名前さんを逃がさないようにするので精一杯だ。俺よりも背が低いから見上げてくるその瞳に心拍数が上がる。相変わらず可愛い。そう言えば、こんなに名前さんに近付くのは初めてだ。

「告白、迷惑でしたか。佐鳥が嫌いですか」
「嫌いだったら、今すぐにでも佐鳥くんを蹴り飛ばしてるよ」
「でも、佐鳥の事避けてたじゃないですか!」
「避けるも何も、面倒な仕事が入って引きこもってただけなんだけどなぁ」

避けられていなかったという事実に、ひとまずはほっと息をついた。ならばともう一度気持ちを伝えてやる。

「俺は名前さんが好きです」
「私は佐鳥くんのこと嫌いじゃないよ」
「…それは好きってことじゃないんですか」
「さあ?」

余裕そうに笑みを浮かべる名前さんを見て、切羽詰ってるような自分を思わず比べてしまう。改めて子供である事を認識させられてしまうようで釈然としない。名前さんの余裕そうな顔を崩したくて、鼻先が付くくらいに顔を近付けた。

「キス、しちゃいますよ」
「佐鳥くんってば大胆」
「佐鳥は本気ですからね」

そうは言っても緊張して俺の息が震えているのが分かる。だって、あの憧れの名前さんだ。好きだと言ってもらえてないのに本当にキスしてもいいのだろうか。彼女の唇を前にしてほんの少し迷いが出てしまった。

「これで私を追い詰めたつもり?」
「へ?名前さ、」

綺麗に名前さんが笑ったと思ったと同時に唇に柔らかい触感。なんとも情けない俺の開きかけた口元へ名前さんがキスをしてきて思わず目を見開いた。
思考回路がショートして、名前さんは怯んだ俺の腕からするりと抜け出した。

「そんなんじゃ、まだまだだなぁ。もうちょっと頑張ったら考えてあげる」

名前さんはウインク一つ落として悠然と去っていった。名前さんが去ってしばらく経った後に、俺はその場にずるずるとしゃがみ込んだ。
あーあ。俺、すっげー格好悪い。
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