短編 | ナノ
▼ ひたすら説教しました

「ちょっと、話聞いてんの!?」
「聞いとうよ。名前、少し酔いすぎばい」
「千歳うるさい!」

名前は俺の肩をバシバシと叩きながら、手にしているビールを口に運ぶ。
今日は中学時代のテニス部の仲間達との飲み会だった。中学を卒業して10年が過ぎ、それぞれが各進路に就いても今だに近況報告や会いたいからとこうして定期的に集まって飲み会を開く。これで何度目だろうか、もう分からないくらいには頻繁に会っている。隣りにはすでに出来上がっている名前がビールを片手に語り続けている。全く、酒に強くないくせに飲み会に毎回参加しては酔い潰れる。俺は呆れるように焼酎を口に付け傾けた。

「千歳はさ、中学の時から全然変わってないよね。風みたいに飄々としててさ、こっちが困って探してるのに全然見つからないの。その時の私の苦労分かってんの!?」
「それは悪かったと思っとるたい」
「私の気持ちなんて全然考えてないのにそのくせ、探してない時にはすっと現れる。しかも私が1人で悩んでる時に限って必ず」

名前は手にしていたグラスを机に置いて、俺の目をじっと見つめる。一度口篭ったような素振りを見せ、そして何かを決心したように口を開いた。

「千歳はさ、私のことが好きなの?」

そのあまりな真剣な目に、思わず息を飲んだ。
俺は中学の頃から名前が気になっていた。何か名前が困ったことがあったら助けてあげたいという気持ちもあったし、たまに俺のことで困ってほしいという時もあった。中学を卒業してもその気持ちは変わらず、むしろ膨らんでいくばかりだった。少しでも傍にいたいと思うようになり、出来るだけ名前の近くに居るようにしていた。
いっそ告白してしまえば早かったのだろうが、もしも断れた時の事の方が怖かったのだ。もうこの飲み会にも来てくれなかったら、もう連絡も取ってくれなかったら、もう会ってくれなかったら。そう考えれば考える程に思考が悪循環に巡る。いつからこんなにも臆病になってしまったのか。自分自身に思わず失笑した。なんでもないような素振りをしていたのに、こうも確信を突かれてしまうとは。
返答に悩んでいると、今までの勢いはどこへ行ったのやら。名前は机にうつ伏せに顔を置き、ぽつりぽつりと言葉を零す。

「千歳は私の買い物も一緒に行ってくれる。私の好きな物を好きになってくれる。歩くペースだって私なんかよりずっと速いのに私に合わせてくれる。余所見してて人にぶつかりそうになった時は、そっと手を引いて避けてくれた」
「…」
「昔からさ、私が泣いてる時はずっと傍にいてくれた。いつもふらふらしてるくせに。居場所なんて言ってないのに絶対来てくれた。へこんだ時も皆に言ってなかったのに、千歳だけは何も言わずに私の頭撫でて慰めてくれた。悩んでる時は親身になって最後までつまらない話も聞いてくれた」

机に向けていた顔を俺にちらりと向ける。アルコールの影響も相まって、潤んだ瞳で俺を見上げる。

「勘違いさせるな、ばか」

少し口を尖らせて恨みっぽく言われてしまえば、これはもうお手上げだ。白状するしかなくなった。
俺はグラスに残っていた焼酎を全て飲み干して、少し奥で財前と語っている白石に声を掛ける。

「白石、名前がけっこう酔っとらすけん連れて帰ってもよかね?」
「せやな、もう遅くなってきとるし。気ぃつけて帰りや」
「悪かね。名前、帰るばい」

名前が帰る準備をしているのを横目で見つつ、財布からお札を数枚出して名前の分と共に白石に渡す。別に返さなくていいと言っているのに、名前は次の日律儀にお金を返してくる。
その行動も、名前と一緒に帰ることも恒例と化してしまった行動だ。白石には俺の気持ちを見透かされているから、生暖かく見守られている。たまにアドバイスを貰う時もあるけど、実行に移せてないのが現状だ。

皆に別れを告げて名前と店を出ると、ぐらりと傾く名前に驚いてとっさに腕を掴む。今日はいつも以上に酔っていたからな。だからいつも言わないような事すら口にした。きっと今まで俺に対してずっと溜め込んでいたもの。名前も俺と同じように不安だったのだろう。
いつもならこのまま一緒に歩いて名前の家まで送り届けるのだが、流石に今日は難しそうだ。俺は名前の前に移動し、すっとしゃがんだ。

「後ろ、乗りなっせ」
「…ん」

普段なら恥ずかしがるけれど、どうやら今は酒の影響で判断力が鈍ってるらしい。素直に俺の背中に体重を預けて寄りかかっている。その事を確認してから手を名前の足にかけて俺はゆっくりと立ち上がった。背中から感じる重み、そして温かさに頬が緩みながら前へと進む。少しひやりとする風が火照った身体には気持ちいい。

「涼しかね」
「…」
「…今までずっと名前と一緒におったとは、悪かばってん下心があったけんたい」

静かな空間で俺の言葉だけが響く。名前が起きているのか寝ているのかも分からない。ゆっくりと歩きながら俺は言葉を続ける。

「名前はずるかね。あぎゃん言われたら本当の事ば言うしかなかろうもん」
「…」
「好いとうよ。ずっと前から、名前のことが」

俺の前に投げ出されていた名前の腕が、俺の前で小さく交差する。そしてきゅ、と力を込めて密着するのが分かった。名前はどれだけ酔っても次の日には必ず記憶が残るタイプなのを知っている。さて、今から明日の名前の反応がとても楽しみだ。
俺はずり落ちてきた名前の体を一度上にあげた。星を眺めながら、ゆったりと歩を進める。静かな街並みにカランコロンと音が響いた。



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