「翔ちゃん曲が出来たよ。」 君が私を見ていないことなんか、とっくの昔から知っている。君は私をただの幼馴染みとしか見ていなくて、他に好きな子が居ることも知っているよ。私は翔ちゃんのことが大好きだから、何でも分かってしまうんだ。例えそれが私の知りたくないことでも、私には分かってしまうんだ。もしかしたら私は翔ちゃん自身よりも翔ちゃんに詳しいかもしれないね。翔ちゃんが大好きだからこそ、分かってしまう。私は一生翔ちゃんと両想いになんかなれない。だってあんなに夢中な翔ちゃん見たことがないの。歌だけに、演技だけに夢中になってくれたら良かったのに、彼は一人の女の子に夢中になってしまったんだ。 「あーわりィ!ちょっと用事があんだ、明日でもいいか?」 「…また春歌ちゃん関係?」 「なっべべべ別にそんなんじゃねーよ!」 「どもりすぎだバカ。」 「なっ何だよ文句あんのか!」 「せいぜい嫌われないように。」 「てっめバカにしやがって!」 バカにバカって言われるなんて屈辱的だ、なんて思っていたら声に出ていたらしくて、翔ちゃんは覚えてろとかなんとか言って走って行った、春歌ちゃんのもとへ。ああずるいな、翔ちゃんに走って来てもらえるなんて、ずるい。私との曲よりも、春歌ちゃんとの用事を優先する翔ちゃんが嫌い、優先される春歌ちゃんも嫌い。みんなみんな嫌い。私と翔ちゃんの時間を奪うものなんて嫌い、嫌い、嫌いだ。だって私が翔ちゃんと話せる唯一の時間なのに。クラスも違う私が翔ちゃんと話せるのは2人で曲を作る時だけ。私はその時しか話せないのに、どうして春歌ちゃんは話せるのかな。条件は一緒のはずでしょう?どうして春歌ちゃんばっかり。でもこうやって、何も悪くない春歌ちゃんに嫉妬する自分はもっと嫌い、大嫌いだ。 「バカ、翔ちゃんのバカっ…!」 いつもいつも自分の中にいる黒い塊に呑まれそうになる自分を、なんとか押さえつけて、何もなかったかのように彼の前で笑ってみせる。本当は気づいて欲しい、でも気づいて欲しくない。こんな私の苦しみを知って欲しいと思う。けれどその半面、こんな私をみて嫌いだと言われることに恐怖を感じている。知ってほしい、知られたくない、その気持ちがぐるぐる私の中を動き回る。そして答えを出せないまま、私は偽物の仮面を張り付けて君の側に居る為に笑うんだ。 「なんか、最近何かあったのか?」 「…どうして?」 「いや、なんか最近お前が作る曲歌ってて楽しくないって言うか、」 「ほほーう?」 「いや、その…」 「翔ちゃんは私の曲がつまらないと、?」 「…そこまでは言はないけど、」 「じゃあ、誰となら楽しいの?」 そんなの分かりきっていたのに、初めから分かっていたことのはずなのに。けれど一度口からこぼれ落ちた言葉は留まることをしらなくて、私は自分の首をまた締め付けるんだ。誰にもこの気持ちを言うつもりなんてないくせに、上手く隠して翔ちゃんを見守ろうと思ったのに、どうして私はこんなにも彼が好きなんだろう。どうして彼じゃなきゃダメ何だろう。彼にしか私はドキドキしない、こんな宝物みたいな気持ちを抱いたりなんかしない。どうして、とかじゃなくて彼じゃなくちゃダメなんだ。理由なんかなくて、私は翔ちゃんがいいんだ。他の誰でもなくて、翔ちゃんがいい。翔ちゃんじゃなきゃこんな気持ちに出逢うことなんかなかった。翔ちゃんは私の全てなの。だから私は彼から離れられない。 「翔ちゃん、貴方のパートナーは私です。」 「知ってるよ、そんなの。」 「そう、なら私がどんな性格かも知ってるよね?」 「なっなんだよ、」 「翔ちゃんがぎゃふんと言うような曲を作ってみせるから覚悟してね。」 そう言えば貴方は私の大好きな笑顔でにっこり笑って、楽しみにしてる、なんて言うんだ。だから私は彼の為に今日も曲を作る。私が作る貴方だけの曲を。いつか想いが届くなんてそんな甘いことは思わない。そんな曲は作らない。私が歌って欲しい曲を、私だけが知ってる翔ちゃんを私は曲にするんだ。悲しくない訳がない。何よりも大事で、誰よりも大好きな君が他の子を想うなんて。考えたくない。だけどそれも、その想いも私の大好きな翔ちゃんの一部で、私は受け入れなくてはならないのでしょう?逃げ出したくてしょうがないこの場所で、私が息をする為には全てを受け入れるしか方法がないのでしょう? 「翔ちゃん、大好きだよ。」 骨を通る星の群れ (君の幸せを願うには幼すぎた) *** 深海魚様に提出。 参加させて頂きありがとうございました。 胡已 110905 |