彼女に、触れてみたいと思った。

素晴らしい曲を生み出す手、一言一言に反応してコロコロ変わる表情、そしてこんな自分に見せる無防備な笑顔。彼女のすべてが可愛らしく見えた。彼女と共に同じ曲を作っていく中で自分の心の中にふつふつと湧き上がったその感情は止まることを知らなかった。このままでは自分が壊れてしまいそうだった。

髪を束ねたり、手を合わせたり、小さな仕草さえも可愛らしくて自分は早まる鼓動を抑えられない。顔に感じる熱は一向に収まってくれようとしない。
そして彼女は何か自分に問題が起きれば、心配そうにこの自分を気遣ってくれる。自分には勿体ない、素晴らしいパートナーだった。


今、彼女はどうしているのだろうか。寮に帰ってふと思う。課題をしている最中にも彼女なら、などと考えてしまう。その時はもう課題などに気が入るはずもなく仕方なくその夜は諦めて早朝にこなす。この後あるはずの、彼女との練習を楽しみにしながら。どこまで自分は彼女に惚れ込んでいるのだろう、全く自分に呆れてしまう。

そして彼女の作った歌を歌える自分を誇りに思う。そしてこの自分にそんな素晴らしい歌を歌わせてくれる彼女を尊敬する。それ以上に彼女を自分は愛している、そう思う。
彼女の曲を歌っている最中だけは自分と彼女だけの世界であると信じたい。他の者には誰も邪魔させない。不可侵な時間であってほしい。
───それだけで自分は幸せだった。






自分を呼ぶ愛しい彼女の声がする。早く迎えに行かなければ彼女は不安に思って自分を探しにおなかの大きくなった体に鞭を打って来るだろう。自分は読んでいた子育ての雑誌を静かに閉じ、声の聞こえる方へ歩き出す。こんな自分には勿体ないほど美しく聡明な彼女の方へ、



「真斗君、新しい曲が出来たよ」