ここ二週間ずっと考えてて、ずっと不眠の原因になってたことを、今日こそは訊いてみようと思ってる。あたしの勘は良く当たるから、恐らく自分を追いつめる結果になるんだろうけれど。 「ねえ、アイドル目指すことになったんだって?」 「おや、耳聡いね、レディ。誰から聞いたんだい?」 「秘密。…ま、確かに綺麗な顔だし、良い声してるし向いてるのかもね。」 「…冗談止してくれよ。無理矢理行かされてるのさ。」 レンがアイドル養成学校(早乙女学園だっけ?あのシャイニング早乙女が学園長の)に通い始めたって風の噂に聞いたのはもう二週間も前。聞けば4月から通っていたらしいけど、今日あたしが尋ねるまでそんな素振りは一切無かった。今まで通りに誘えば答えてくれていたんだし。 「あたしなんか構ってていいの?忙しいんじゃない?」 「まさか。レディと過ごす時間より優先すべきことなんてないさ。」 本当は彼に構って貰えなくなったら呼吸の仕方さえ忘れてしまいそうだと云うのに。あたしだけが焦がれている虚しさと悔しさから口をついた言葉はそれだった。本当、可愛くないな、あたし。そしてそれへの返答はあれ。レディと、それはあたしだけを指す言葉じゃない。それどころか、あたしはレンにきちんと名前を呼ばれたこともないんだ。 「ふーん。レンのことだから、パートナーとか可愛い女の子かと思ったのに。」 「…っ、うちの学校の制度にやけに詳しいね。」 「だって早乙女学園て云や、有名じゃん?それ位聞いたことあるよ。」 嘘。レンが通ってるって知って少し調べた。調べたって事態は変わらないし何も解決はしないけど。 それに、さっきの彼の反応は多分図星。そして多分…本気なんだと思う。アイドル目指すのも、…パートナーの女の子のことも。やっぱりあたしの勘は良く当たるんだ。それも、嫌なことばかり当たるから本当、嫌になる。 「しかも全寮制なんでしょ?外泊なんか…知らないよ?」 「大丈夫さ。バレるようなヘマはしないからね。」 「それは毎日証明していることからくる自信?」 「…どうしたんだい、今日は何だかご機嫌斜めだね?」 「別に、…」 どんどん急降下する機嫌。気分は最悪。折角、レンと会えているのに。…もしかしたら、次はないかもしれないのに。 「ごめん。くだらないこと訊いた。…続き、しよ?」 「レディ、」 「ね、レン、お願い…」 お願いだから、それ以上は云わないで。今だって遠いの。それ以上聞いたら、もっと何処か、宇宙くらい遠い何処かにレンが行ってしまいそうなんだ。そしてあたしには、そこに行く術はなくて、それで、誰か知らない可愛い子が、きっとレンの隣に居るんだ。 「…、レディ、」 「…ん、っ、…。」 レンは本当に女の人の気持ちを読むのがうまいよね。それともあたしが顔に出るタイプなのかな。初めて見る、戸惑った顔。けど、優しいレンは、優しくて苦いキスをくれた。本当、優しいのに、苦くて…、視界が霞みそうになるよ。 「っは、レン…、」 「…、ごめん、」 「…、謝らないでよ。」 ねえ、そのごめんは何に対するごめんなの。どんなに過ごしても、どんなに繋がっても愛せないことに対して?キスで有耶無耶にしようとしたことに対して?…本当はあたしにじゃなくて、パートナーの可愛い子に対して? ―、ヴヴヴ… その直後に震えたのはレンの携帯で。レンの携帯が2人で居たときに震えたことなんて今までは無かったのに。今までは、あたしと一緒だからって電源を切っていたのに。きっと、誰かからの連絡を待っていたんだろう。 「…出なくて、いいの?」 「……ああ。メールだから、」 「…そう。」 「…、本当、ごめん。」 「謝らないでったら…」 謝らないでよ。謝らなくたって、携帯が震えたことなんて無かったことにするから。震えた携帯に素早く反応したレンの顔がすごく穏やかで、何処か嬉しそうだったことなんて見なかったことにするから。だから、 (そう思っても彼を突き放せないあたし。あたしと会ってることで、後で彼が自分を責める結果になるのもわかってる。それなのに今に甘んじるあたしは、レンなんかよりもっとずるいんだ。嗚呼、なんて非生産的な関係、) ―――― 企画『深海魚』さまに提出させていただきました。 |