今日も今日とていつもと変わらず一日の授業が終わり、放課後の部活の時間になった。いつも通り部活着に着替えて、部室でみんなと駄弁ってると控えめに扉をノックしてなまえが入ってきた。 キョロキョロと辺りを見渡してお目当ての人物を見つけた瞬間、表情が明るくなった。相変わらず分かりやすいなとか本当に嘘が付けない質なんだとか思いながらチクリと胸が痛む事に気付かないふりをした。 「荒北ー!顧問が呼んでたよ」 「だりぃなァ…」 「早く行っておいでよ!」 怠そうに頭を掻きながら立ち上がった靖友の背中を押しながら促すなまえの顔はとてもキラキラしていて、いかにも恋する乙女!って感じだ。 本当に可愛いなとか思うと同時にその笑顔が自分に向かないことに苛立つ。だって仕方が無いではないか。何故靖友なのだ?そりゃ靖友はとてもいい奴だ。だけどルックスは俺の方が上だろう。性格だって周りから優しいと言われるくらいなのだから悪くはないと思う。では何が一体靖友に比べて劣っているというのだろうか?何でなまえは俺ではなくて靖友を好きになった?考えても答えの出ない事が頭の中をグルグル回る。 そもそも何処が劣ってるとか優ってるとか考える時点で俺は性格が悪いのかもしれないとひとりで思考の海に浸っていると、ひょこっとなまえが下から俺の顔を覗いてきて驚いて後ろに身を引いた。 「新開どうかした?なんか怖い顔してるよ?」 「いや?ただおめさんは今日も可愛いなって思って」 「イケメンにそんな事言われたらお世辞でも嬉しいよ、ありがとう!」 お世辞じゃないんだけどなと心の中で返事をしながらなまえに靖友の後を追わなくて良いのかい?と聞くと、そうだった!と慌てて靖友の後を追っていくなまえを見送る。 自ら好きな人を他の男の元に行かせるなんて何やってんだと思いながらも少しだけだがあの笑顔が自分に向けられた事に喜んでいる自分もいる。もう本当に自分はどこまでなまえに惚れているのだろう、本当自分は何やっているんだろう? 「新開さん、みょうじさん荒北さんのところに行かせて良いんですか?好きなんですよね?」 「…真波」 さっきから真波に見られてるなーとは思っていたが、まさか俺のなまえに対する想いに気付いていたとは。普段は不思議ちゃんの癖にこういう気付かないで欲しいことに対しては目敏い。本当に面倒臭いタイプの人間だ。 だって良いもなにもなまえが靖友の事が好きなのは誰がどう見ても明らかな事実な訳で、直接聞いた事はないが、靖友もなまえの事が好きなのだろう。なまえと話す時の靖友は雰囲気が随分と優しくなる。という事は二人は両想いな訳で。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえって言うではないか。無粋な真似をする程俺は天然でも空気が読めない訳でもない。 「じゃあ好きな人が他の男に取られるのを黙って見てるんですか?」 「おめさんは何が言いたいんだ?」 「欲しければ奪っちゃえばいいんですよ」 言いたいことを遠回しに言ってくる真波に苛立ち直接聞いてみれば、欲しければ奪えば良いだと。奪えるものならもう既に奪っていると言えば、結局新開さんはみょうじさんも欲しいし、荒北さんとの友情が壊れるのも嫌で、ただでもでもだってと駄々をこねている子供と同じなんですね、だと。 そんな事わざわざ言われなくても自分が一番分かっている事だ。そう、ただ俺は我儘を言っているだけなんだ。でも仕方が無いではないか、叶わないと分かっていてもこの想いを簡単に捨てるなんて出来ないんだから。 あーあ何でなまえを好きになったんだろうとちょっと後悔しつつ、大好きなチョコ味のパワーバーを咥えて、いつも女子に可愛いと言われる笑顔を浮かべながら練習に向かった。 |