「わたし、荒北のこと好きよ」

にこっと目元をゆるめて、なまえは笑顔がすてきねと家族からも友達からも大絶賛を受けた笑顔と一緒に告白の言葉を届けた。
大丈夫だと思ったのだ。よく会話もするし、他の女の子たちとわたしではすこし態度や対応も変わることは知っていた。これで脈アリと思わないほうがおかしいくらい、距離を詰めていた自信はある。
それに、今は教室にわたしと荒北の二人きりで、時間は五時半。射し込む西日がわたしたちを照らして、なんとなくあたたかな気持ちにさせてくれる。告白にはこれ以上ないくらいぴったりのシーンだった。だから、ずっと胸であたためていた想いをこぼしてみた。

絶対成功すると思った告白が失敗したときの気持ちとは、何に例えられるだろう。もし分かる人がいるのなら、教えてほしい。わたしには分からない。だってこれが、初恋だったから。

「……オレは、みょうじとは付き合えねぇヨ」

期待に胸を踊らせていたわたしの耳に届いた荒北の言葉は、わたしを笑わせるでも泣かせるでもなく、ただ一音、え?と間抜けた声を発させただけだった。




「どうして……だって、他の女の子とわたしとじゃ明らかに態度とか違ったじゃない……」

ようやくしぼり出せた意味のある言葉は、この上なく情けないものだった。
自慢の笑顔はどこへやら。きっとわたしは、今にも泣き出しそうな顔をしているに違いない。だって、荒北が顔をすこし逸らしているから。自分が何かしてしまったと思ったとき顔を逸らすのは、荒北の癖だ。そんなものがわかるくらいには、たくさんの時間を一緒に過ごしていたんだなと、なおさら涙がこぼれそうになる。

「どォして態度違うだけで好きに直結すんだヨ。オレはみょうじのこと、いい友達だって思ってたんだケド……」
「そう、なの」

友達。友達だって。好きだなあって思っていたのはわたしだけで、きっと荒北もわたしのことを好きだろうっていうのもわたしの勘違い。ああ、わたしってなんてバカなんだろう。勝手に両想いだと思い込んで、告白して撃沈。笑い話にもなりゃしない。
目に涙がじんわりと広がっていく感覚があって、あ、と思った。けれど、今ここで泣いてしまったらめんどうくさい女だ。それにだけはなりたくなかった。優しい荒北は、わたしが泣き出したらきっとわたしのことを好きじゃなくたって、やっぱり付き合おうとか言い出すかもしれない。そうじゃなくたって、自分のせいでみょうじが泣いた、って負い目を感じてしまうだろう。そんなことは、わたしが嫌だった。



お互いに何も言えずに再び訪れた無音を破ったのは、今度は荒北だった。

「……あのさァ、付き合えないとは言ったけど、オレみょうじのこと嫌いとかそういうワケじゃ」
「うん、うん、知ってる。友達なんでしょう。知ってるから」

もうこれ以上何も言わないで。
言葉にはならなかったけれど、そういう意味を込めて言葉を返せば、恐らく正しく伝わったのだろう。ワリィ、とだけつぶやく声が届いた。
ああ、もう、つらい思いをしたかったわけでも、させたかったわけでもないのに。顔を上げたら途端に泣きじゃくってしまいそうでわたしの顔はさっきから伏せられたままだから、荒北の表情を窺い知ることはできない。できないけれど、勢いのない声色から表情くらい察することはできる。眉を顰めて、恐る恐るわたしの様子を伺っているにちがいない。ごめんなさい、そんな顔をさせたかったわけじゃないのよ。

「ごめん、ごめんなさい。明日からちゃんと"いい友達"になるから、だから、今まで通りでいてほしいの」

言いながら、頬に生ぬるいなにかが伝うのを感じた。必死でせき止めていたそれはもう限界をとうに超えていたみたいで、一度こぼれ出せば止まることはない。ぽたり、と床に涙のあとができたのを見て、きっと荒北にもわたしが泣いていることばれちゃっただろうなあと思う。我慢してたのに、だめだった。このままここにいるわけにはいかないと、バイバイまた明日、どうにかそれだけ伝えて、机に掛けてあった鞄を引っつかんで駆け足で教室を出た。

みょうじ!と荒北がわたしを呼ぶ声が廊下に響く。パタパタと、わたしのものではない足音も一緒に。それらを全部聞こえないことにして、わたしはまっすぐ昇降口を目指した。
どうして付き合えないって言ったのに追いかけてくるの。荒北の優しいところは大好きだけど、今はその優しさもただつらいだけなのに。
明日からわたしと荒北は"いい友達"なのよ。今日でこの気持ちにおわかれをしなきゃいけないんだから、お願い、今だけはわたしのこと放っておいてよ。
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