※東堂×モブ(♀)描写あり



自分を構成する全てがコンプレックスだった。

要領の悪い行動や人一倍、いや人何十倍も努力しなければ追い付かない頭脳、まだ十代であるにも関わらず色素が皆無のこの髪と不健康な程白い肌。

そんな私に対し、双子の兄は運動神経抜群、成績優秀、気さくな人柄と皮肉を込めて言うならば、絵に書いたような出来た人間だった。

同じ母親と父親から生まれて、胎盤も卵子すらも共有して生まれた私達。

似た容姿の私が抱えるコンプレックスは兄にも現れたのだが、優れた能力を持つ兄を前にすればコンプレックスも魅力へ変わり、異性から非常に好意を持たれていた。

苦しい。
私達は染色体以外に異なる物はないはずなのに、こんなにも優劣がつくなんて。


真っ白な髪と肌をコンプレックスにする私に与えられた黒田という名前はあまりにも皮肉に思えて仕方なかった。
ずっと少なくとも結婚するまでは解消されない物だと達観していた。はずだった。


「黒田さんの髪は白銀の雪のようで美しいな!」


美しい容姿とそれに比例した内面を持つ、兄と同じクライマーの東堂先輩にそう言われた。


「…そんな事ありませんよ。歳不相応で私は嫌いです」

「む、そうなのか?」

「はい…」


戸締まりをしながら返した言葉に東堂先輩は、ふむ…と考えてから自身のロッカーから赤いカチューシャを取り出した。

手招きで私を呼び寄せると、あろう事か持っていたカチューシャを私の白い髪に着けたのだ。


「ちょっ…東堂先輩?!」

「うむ!やはりこの色を選んで正解だな。赤がよく栄える。まるで白銀の雪原に咲く深紅の椿も恥じらう美しさ」

「いや、あの…」

「白雪姫のようだ」

「……ッ、白雪姫の髪は黒いですよ…」

「それもそうだな!だがな、可憐で本物の雪のように美しい黒田さんを前にすれば、白雪姫も霞むのだよ」

「……………っ!」


立て続けの誉め言葉に照れ臭くなり、目線を逸らした私を笑って許してくれた東堂先輩。

そして着けていたカチューシャを返そうとしたが、自分が着けるよりも似合っており、カチューシャも自分に使われるよりも喜ぶに違いないと断言され、私の断り柔らかくも押し退けられてしまい、結局有り難く頂戴した。

ずっとコンプレックスだった髪が少しだけ好きになり、雲の上のような人だった東堂先輩に恋をした。

叶わないと脳裏で理解しながらも、見てほしくて粗末にしていた髪を丁寧にケアをして、毎朝東堂先輩がくれた赤いカチューシャを着けて登校した。

兄も似合っていると言ってくれて、お世辞だと分かっていながらも可愛いと言ってくれる東堂先輩に胸が溶けそうになった。


「東堂さんのこと、好きなのか?」

「えっ!?」

「顔。林檎みてーに赤くなってっから」

「うそ…」

「マジマジ」


恥ずかしくて頬を手で覆う私に、まぁ頑張れよと応援してくれる兄の雪成。
うん…!と返事をして、いつの間にか出来た溝がこの日を境に無くなり、選手とマネージャーである私達は二人で部活に行くようになった。

これも東堂先輩のおかげだ。
やっぱり私は東堂先輩が大好きだ。







授業が終わり雪成と共に部活に行こうとしていると、担任が資料室に置いて来てほしいと大量の本を渡された。

ちょうど男手として雪成がいたから指名されてしまい、何とか私だけで運ぼうとしたが、無理すんなと半分以上持ってもらい、お言葉に甘えて手伝ってもらうことにした。

資料室前に着き、雪成よりも荷物が少ない私が開けようと扉を開いた瞬間、見たくない物を見てしまった。


「なにボーッとして…」

「とう、ど…せんぱ、い」


狭い資料室で女の子とキスしている東堂先輩がいた。
女の子は少し恥ずかしそうにしながらも嬉しそうで、東堂先輩はそんな女の子を愛しそうにしている。

本を抱えていた腕の力が抜け、バサバサと音を立て落ちていく。
それに反応した東堂先輩達はハッとして此方に視線を向けた。


「…っ、なまえ!」


ワザワザ顔を見なくても泣いている私に、これ以上場が悪くならないようにと豆だらけの大きく頼もしい雪成の手が私の目を覆う。

優しい雪成のことだから、尊敬する先輩が混乱しないように、同時に私にこれ以上辛い思いをさせまいと涙を隠してくれたのだろう。

雪成をソッと押し退け、無我夢中で私は走って逃げた。
もう何も見たくなかった。
何も聞きたくない。全て悪い夢であってほしかった。

さっきの人はきっと東堂先輩の彼女なんだろう。
とても綺麗で品のある女性であることが一目瞭然に分かった。

その人は艶やかな人工物でない生まれ持った黒髪をしていて、肌も程よく焼けて桃色に染まった健康的な色をしていた。


何が美しいだ、椿のようだた。結局、私は何も変われていないじゃないか。

もし私が本当に白雪姫であるならば、毒林檎を食べて、目覚めることのないまま消えてしまいたい。


泣きじゃくる中、手にした宝物のカチューシャは林檎のように赤かった。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -