窓際の女子に視線を向ければ、満面の笑みでこちらを見て手を振る。しかし、その女子に重ねるもう一つの影はもっと太陽の様に輝いていて、今一度その笑顔を俺はみたいと思った。しかし、それは訪れないだろうと不確定ながら確信であり、想像は現実にならない。彼女があの窓際に座らなくなってから、一年が過ぎた。俺は彼女がいなくなってから、1年彼女に片思いした。進む事も、戻る事も出来ない、恋だ。



「東堂っ!」
「うぉっ!?」
「東堂みっけ!」
「みょうじさん!離れろ!」

聞き覚えのある声に振り返る間も無く背中に重みと温かさが加わる。ふんわりと、甘い匂いが鼻をくすぐる。すぐに、みょうじさんだと、分かるのは、この行為が毎日毎日、何回と行われるからだ。ブラブラと俺の背中にぶら下がるみょうじさんの笑い声に、頭を抱えたくなった。

「あのね、東堂!今度一緒に映画行こうよ!」
「この前は水族館で今度は映画か。折角の誘いだが練習がある」
「えー!この前もそう言ってたじゃん!」

プラネタリウムに遊園地に水族館に映画。みょうじさんからの誘いは片手では足りない程だったが、どれ一つその誘いを受けた事はなかった。1度でも乗ってしまえば、みょうじさんはまた行こうとせがむだろうし、他のファンの子達にも同じ扱いをしなくてはならなくなる。みょうじさんだけを、特別扱い出来なかった。

「ねぇ、東堂。」
「なんだ?悩み事ぐらいなら聞いてやるぞ?」
「……ううん、何でもなーい!ねぇ、今度一緒にさ、」
「それはならんよ」

自分でも驚く程の声だった。彼女もまた、驚いた顔をしていたが、次第にいつもの笑顔になる。

「そっか、分かった。ごめんね」
「悪いな、また明日」
「う、ん。また、明日ね」

彼女に背を向ける一瞬、ゆっくりと手を振るみょうじさんの顔はどこか悲しそうで。けれど、何も見なかったふりをして、その場を去った。
また、明日。やけにその言葉はしっかりと頭に残されていて、俺は奥歯でしっかりと噛んで飲み込んだ。

次の日、彼女は教室に居なかった。そして朝、担任から告げられた言葉は俺の心臓を簡単に締め付ける。
親の都合で転校した。みょうじさんは、もうこの教室に、箱根学園に、存在しない人物となった。誰も知らされていなかったのか、ざわついた教室に、俺は彼女の残像を見た気がした。窓際で、黒くて長い髪の毛を風でなびかせて、俺を見つめている彼女の姿は、もうどこにもいないのに。

その日の夜、彼女の夢を見た。いつもはそんな夢を見ないのに。夢のみょうじさんは、最後に見た時と何一つ変わらない。

「ねぇ、東堂。私が居なくて少しは寂しい?」
「あれだけ、派手にやられれば誰だって寂しくなるだろう」
「そっか、よかった。少しでも東堂の記憶に私は残ってたんだ」

みょうじなまえさん。初めて呼んだ彼女のフルネーム。それを聞いて満足するみょうじさんの顔は、現実で一度も見た事がない程に嬉しそうだった。




今思えば彼女は美しかった。彼女のの中にある芯は誰よりも強く、揺るがない気持ちだっただろう。それに、気付かなかった俺は、彼女が居ない1年をずっとひたすら片思いし続けている。そして、その恋はもう決して実らない事だって分かっているのだ。
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