丸井ver. | ナノ



「赤也」


空気が、揺れた。
いつもそうだ。幸村くんの言葉は空気を、俺たちの心を揺らす。
幸村くんは、どんな気持ちなんだろう。俺のななめ一歩前にいる幸村くんの、この大きな背中はきっと俺たちには到底分かり得ないほどの気持ちを背負ってる。


「すまない」


真っ直ぐに赤也の目を見て、俺たちみんなが飲み込んだその言葉を幸村くんは口にした。ジャッカルも、仁王も、柳生も、柳も、真田も、そして赤也も。俺を含めたみんなが、幸村くんを見つめた。


「ゆ、きむら…」

「なん、で部長が謝るんすか…!部長は…」

「負けたのは俺だ」


さっきまで横で千切れそうなほど拳を握っていたあの幸村くんとは別人のように、強い口調で幸村くんは言い切った。


「俺がお前たちに優勝旗を握らせてやれなかった」


ああ、さっきのすまないは俺たち全員に向けてだったんだな。


「幸村だけじゃねえだろ…俺達だって」

「…俺もじゃ」

「俺が勝てば立海は優勝できたんだ」



ああ、これか。
有無を言わさぬ口調。それはいつだって俺たちに向けられた優しさだったんだ。

優勝、口に出したくもない言葉だった。全部そうだ。さっきの謝罪もこれも、俺たちの代わりに全てを吐き出してくれる幸村はやっぱり俺たちの部長だ。ごめんね、幸村くん。
ごめんな、赤也。


「…すまない、赤也」

「なん…」

「立海を、頼んだよ」






ちいさなあのこに全てを託すぼくらは残酷ですか








 



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