逃避行 | ナノ
「それで、話って?」
「ああ、お前に一つ謝らなくてはいけないことがあってな」
「謝る?」
「…申し訳ない、昨日俺は嘘を吐いた」
「…は?」
いきなり謝られても。
「昨日、俺はお前に質問したことについて“つい癖で”と言っただろう」
「言ったね」
「本当は、このクラスで文系一位の成績を誇るお前に興味があったからだ」
柳に言われてそういえばそうだったと思い出した。文系一位、ねえ。
ていうか聞こえは良いけど、それって私のことを敵対視してるって意味じゃないのか。
「柳くんは理系一位じゃない」
「ああ、そうだが…いや、そういう意味ではなく、俺はただそれだけの頭脳を持った者がどんな人物なのか気になっただけだ」
あ、ちょっとだけばつの悪そうな顔してる。これってレアなんだろうな。
「でも、そういう意味もちょっとは入ってたでしょ?」
「…俺とてこうも一位を阻止されれば悔しくもなるさ」
目が開いてるのかは分かんないけど柳は雰囲気的に私から目を逸らしたらしい。何も恥じることじゃないだろうに。まあこんな面と向かって悔しいとか言われたのは初めてだけどさあ。
「それで、私に何か発見はあった?」
「いや、今のところ特にないが」
「今のところ、じゃなくてこれからも何もないよ。見ての通り」
「…しかし」
「あー…柳くんごめん、そういえば私先生に呼ばれてたんだよねー。ばいばい」