逃避行 | ナノ
時は進んでその翌日、昼休みのこと。
いつものようにお弁当を食べて早々と屋上に向かおうとしたのだが、柳に呼び止められた。
「何?」
「屋上に何か用があるのか?」
「別に、暇だから行くだけだけど」
「それならば、少し俺に付き合ってはくれないか」
「いいけど」
これがただの男子なら特に何も思わないのだけど、柳は確か一応それなりに人気のある人で、その柳に呼び止められると何故か少し緊張してしまう。…というのは言い訳で、実はまだ昨日のことを引きずっていたりする。
また質問攻めか、この人怖いからなあ。
「まあそう身構えるな。」
「あー、うん」
「…そうだな。藍川、ガムは好きか?」
やっぱり尋問の続きかと思いきや、柳は昨日のノートを持っていないのでどうやらただ聞いただけらしい。
「あんまり。アメのが好き」
「それならばちょうど良い、これを舐めながらでも俺の話を聞いてくれ」
柳のポケットから出てきた“これ”は、いちごみるくのあめ玉らしい。かわいらしい包み紙と柳は正直言ってとても似合わないが、とりあえずそれを受け取り口に放り込む。うん、薬物ではないらしい。まあそうだとしても別に良いんだけどさ。
「柳くんといちごみるくって似合わない」
「そうだろうな。念のため言っておくがそれは貰い物だぞ」
「良かった」
「どういう意味だ」
そういう意味。の声の代わりに、私はいちごみるくを右頬から左頬に移動させた。
「ガムもあったの?」
「ああ。どちらも貰い物だ」
「ふーん」
「緊張はほぐれたか?」
そう言われて初めて、私が普通のテンションで話していることに気づく。
わざとだったのか。
ちょっとアレだけど、まあ参謀の名前は伊達じゃないってわけだ。