逃避行 | ナノ
一瞬だけ機能停止してふっと笑った柳に思わず恐怖感を抱いてしまった私は別に間違っていないと思う。
待て待て、ガチだったのか。実に率直な感想である。
「そう言われることも時折あるが、断じて俺はストーカーではないぞ」
まだくっくと笑っている柳はどうやらガチだったのではなくつぼにハマってしまっただけらしい。良かった。隣にストーカーとかそれこそガチで笑えないわ。
「少し聞きすぎてしまったようだな」
うん、少しじゃなくて結構ね。
「すまない。つい癖でな」
「あー…何だっけ、柳くんてテニス部の参謀、なんだったっけ?」
「ああ。何故それを?」
「噂」
なるほど、と柳が頷いたところで先生がSHRを始めるとクラス中に呼びかける。
それきり、その日は柳と話すこともなく普通に友達と会話して普通に家に帰った。