逃避行 | ナノ
まさかこんな馬鹿みたいな女に口で負けてしまうなんて、思ってもみなかった。大体そんな情報、どこから仕入れたんだ。
…いや、どこからにせよ私の負けか。
彼女たちは私が黙ったのを見て、満足そうに鼻を鳴らして帰って行った。幸いまだ昼休みは終わっていない。
ちょうどいいから今日言ってしまおう。
「柳」
「ああ、何だ?」
教室に帰ると、柳は席に座って本を読んでいた。そういえば、私と関わる前も柳はいつもそうしていた。ならまたその生活に戻ってもらおうじゃないか。
「もう、私に話しかけないで」
「……どういうことだ?」
「そのままの意味だよ」
「なぜだ」
「…あんたのせいで私友達一人なくしそうなんだよ」
そんなことで下らないって、分かってるし自分でもそう思う。それでも仕方ないんだよ。結局私はまだ弱いままだ。
「……そうか、分かった」
柳はそう言うと、まだそこにいる私と目を合わせることすらせずに読書に戻った。
遠くであいつらが笑った気がした。もしかしたら本当に笑っているのかもしれない。
けれどきっと、これで良いのだ。間違っていたのは今までの私。そう言い聞かせるようにしながら、あいつらに踏まれた所を手当てしてもらおうと保健室に向かった。