逃避行 | ナノ





柳とそんな妙な約束?をした次の日、早くもその約束は
無に帰すことになる。


「ちょっと、藍川さん来てくれない?」


お昼休み。
最早柳の目なんて知ったことではない、そんな顔をした女子数名にまたもや堂々とした呼び出しを食らった。もちろんそれは一昨日と同じ顔ぶれ。一応こうなるのは分かってはいたんだけどね。


「お前どんだけ神経図太いワケ?人がせっかく忠告してやってんのに」

「そんな頭してるから柳くんの話理解できないんじゃない?」

「あはは、言えてる!」


どうやら彼女たちは私が柳に返事をしないのは理解できていないからだと思っているらしい。うーん、まあ仕方がないか。柳の難しい言葉はお前らには理解できないだろうからね。だから私の頭が少なくともお前たちの空っぽな頭よりは有能だってことすら理解できないんだろう。
私がそのまま黙っていたら、彼女たちは何だかんだと私に暴言を投げかけてきた。要約すると柳に近寄るな、媚び売るな、気持ち悪い…この前とほとんど同じ。
何こいつら、成長もできないの?


「アンタら馬鹿だねー」

「はあ?」

「こんなことしてる暇あったら少しでも柳に媚び売ればいいのに」


本当のこと言ったらまた突き倒されて、今度は左手を踏まれた。さすがに痛い。


「いった…」

「あんた、そんな余裕でいられるのも今のうちだけじゃない?」

「……どういう意味」


今度は左手を引かれて急に顔を近づけられた。瞬間、化粧品の安い匂いが香った。気持ち悪いな、仮面みたいに塗りたくられたその顔近づけないでほしい。
まあそんな下らないことよりも、当然こいつの言葉の方が気になる。


「“今川悠里”って子からイイこと聞いちゃってさあ」


その名前を聞いて思い当たる人物が一人。私の友達、だったはずなのだが、そういえば最近向こうから話しかけてくることはなくなって自然と近づくことすらなくなっていた。私も頭の中は柳のことがほとんどのウエイトを占めていて、よく考えることもしないまま過ごしていたけれど。


「その子、柳くんのことが好きなんだってー。だからアンタが邪魔だって」

「そう。それが何?」

「あたし知ってるんだよねー、……あんたってさあ…」






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