逃避行 | ナノ





その次の日、教室に入ると既に柳が席に着いているのが見えて嫌気がさした。もしかしたら昨日ので懲りてくれたかも、なんて少しだけ思ったりもしたけど、案の定おはよう、と挨拶されてしまった。


「今日の昼は空いているか?」

「…ごめん、今日は本当に、」

「正直にないと言ったらどうだ?」


なぜばれた。
ふ、と笑った柳の頭の中が全くもって理解できない。


「分かりやすいな」


むかつく、すごいイライラする。なんて口には出さないでその場はただ苦笑いするだけにしておいた。



昼休み。今日は誰も寄り付かないような空き教室に来た。ここならバレないはずだ。今頃柳が屋上で私を探しているかと思うととても気分が良い。


「甘いぞ藍川」


思わず心の中で殺す、なんて物騒な言葉が浮かんだのは仕方がないと思う。それも今さっき確認したけど音楽プレーヤーの充電を私はまた忘れたのだ。それでも無理やりイヤフォンを付けて、今度は明らかに柳の話を総スルーすることにした。今日の話題はさくらんぼ。知るかそんなの。



「…ということだ。聞いていたか?」

「ごめん、音楽聞いてたから」

「電源の入っていない“それ”で、か?」


もうこの男、どこまで見てるわけ?私は思わず驚いて、柳はその私の顔を見て笑った。その顔がまた綺麗だから余計にムカつく。


「明日も来る」


昨日と同じ台詞を言い残して、柳はまた満足そうに教室を出て行く。その日私はイライラしてほとんど眠れなかった。






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