逃避行 | ナノ
昼休み、屋上で風に当たる。
少し寒いけど、それくらいでちょうど良い。あの生温い教室の中は気持ちが悪くて、刺激が欲しくなる。せっかくだからもっと刺激を、なんて思ってイヤフォンを耳に当てたとき、後ろからドアの開く音がした。……まさか。
「ここで景色を眺めるのが用事か?」
最悪。
確かに刺激が欲しいとは思ったけど、こんな刺激はいらない。振り向いた先の柳は、私が嘘を吐いたことに怒っていないらしい。
「関わらないで、って言ったはずなんだけどな」
「話すのは構わないとも言っていたはずだが」
「それは、」
言葉の文というか、ただオブラートに包んだだけで、その後に関わらないでって言ってるのに。なんて言っても柳は納得しないんだろう。頭が良い人は言葉の裏を突いてくるからすごく面倒くさい。
「話を聞いてくれるだけで構わない。藍川、桃は好きか?」
「…普通に好きだけど」
「そうか。では桃について話そう。桃というのは、実は実も花も葉も、すべて薬用になる。例えば…」
何だか柳が勝手に話し出したから、さっき止めた音楽を聞こうとしたら、オーディオプレイヤーが動かない。…充電するの忘れてた。けれど柳の話をまともに聞くのも面倒くさいから、私はほとんど反応を返さなかった。
それにも関わらず、柳はああだこうだと昼休みの間ずっと桃の話をしていた。結局私がそれを全てスルーして、柳は一人で話をしているだけだったのに、チャイムが鳴ると満足げに明日も来る、とだけ言って去っていった。