逃避行 | ナノ
「…藍川!」
「あれ、本当に帰ってきたの?」
きょとんとした顔をする藍川を見て、力が抜けた。しかしその顔に似合わない赤い血が相変わらずスカートをぬらし続けていて、俺はすぐに彼女の腕を取った。
細く白い腕の二の腕辺りには、既にいくつもの傷があった。
「ハンカチは持っていないのか?」
「持ってるよ」
「では何故血を拭こうとしないんだ」
血で濡れたスカートを見て、思わず眉を寄せる。これではどうやっても洗濯の際に親に気づかれてしまうだろう。それとも親はこの事を知っているのか?
「だから言ったでしょ、私死にたいんだってば」
「気安くそういう言葉を口にしない方がいい。それに、これではスカートが汚れて後々困るんじゃないのか?」
「スカートは自分で洗ってる。むしろそれが面倒だから死にたかったのに。…ていうか、気安く死にたいなんて言ってないよ、私」
テレビのニュースやドラマの自殺志願者が口にしそうなその言葉に小さく溜め息を吐く。
包帯を巻き終えると藍川は小さくありがとう、と呟いた。
「しばらくしたら替えた方が良いぞ」
「うん、了解。手間かけさせてごめん。ほら、もう部活行って」
藍川は取り出したハンカチでスカートの血をを拭き取る。その慣れた手つきにまたため息が出た。
「いや、昇降口まで送ろう」
「…心配しなくてももう同じ真似しないから」
「貧血で倒れるかもしれないだろう」
「分かったよ、でも部活に遅れても私のせいじゃないからね」
「ああ」