逃避行 | ナノ
ノートを取りに行くと言ったきりなかなか戻ってこない蓮二に、真田が痺れを切らして探しに行ってしまった。俺は大方トイレにでも寄っていたんだろうと思っていたんだけど、どうやらそうじゃなかったらしい。真田はどこか曇った顔で、それも一人で戻ってきた。
「どうかした?」
「いや、蓮二には会ったのだが…」
真田は曇った顔のまま俺に経緯を話す。要するに普段あれだけ冷静な蓮二が焦っていたようだったのと、部活よりクラスメイトを優先したことが真田は腑に落ちなかったらしい。いや、真田のこの顔は腑に落ちないっていうより不思議で仕方ない顔だ。蓮二はいきなりどうしたというのか、と。
「真田はクラスメイトが包帯が必要な状態でも放っておけるのかい?」
「いや、そうではない。ただ…」
「蓮二はお前が思ってるより優しいやつだよ」
「…ああ、そうだな」
真田が一応納得したらしいところで、ちょうど休憩時間になった。俺が部員たちにそう声を掛けると、一気に話し声が増える。
「休憩が終わる頃には戻ってくるだろう。ほら、真田も休憩」
「ああ」