逃避行 | ナノ





「すみません、包帯を頂けますか」


密かに養護教諭がいないことも願ったのだが、生憎ドアに不在通知は掛かっていなかった。挨拶もなしにどうかとは思ったが何しろ急ぎの用だ、そう声を掛けつつ扉を開ける。


「包帯?そんな怪我なら私が行かないと…」

「いえ、…お恥ずかしい話ですが、また赤也が」

「あらあら…ふふっ、それなら柳くんに任せた方がいいかな?」

「申し訳ありません。ありがとうございます」

「いえいえ、柳くんの方が切原くんの体のことはよく分かってるだろうから」


はい、と渡された包帯を手に取ってドアを開けると、ちょうど弦一郎が通りがかったところだった。まさか赤也が本当に、なんて思ったが弦一郎は完全に通り過ぎようとしたためそうではないらしい。咄嗟の言い訳に使えるほどミスを犯す赤也だ、それが今とて不思議ではなかった。

弦一郎がこちらに気づく前に、と弦一郎とは反対方向に走ろうとしたが、案の定腕を掴まれ阻止されてしまう。


「蓮二、どこか怪我でもしたのか」

「怪我をしているのはクラスメイトだ。すまないが弦一郎、離してくれないか」

「ああ、すまない。それならばなるべく早く……おい、蓮二!!」

「分かっている!」


弦一郎にはすまないが、弦一郎の言葉を遮って走った。包帯を拒否した藍川がどこかに行ってしまっては困る。






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