そこは御愛嬌。 | ナノ






結局仁王の言葉の意味が釈然としないまま、数日が過ぎた。仁王は反省はしていなくても真田のお説教はもう勘弁してほしいのか、昼休みは大人しくみんなと昼食をとるようになった。ただし自ら私に関わらない方がいいと言ったくせに何故か私を道連れにして、なのだが。
まあそんなわけで仁王も私も(無理やり)大村さんと少しは話すようになり、ほとんど冬休み前の状態に戻ったわけである。
ちなみに今日の部活には誰が誘ったのか知らないけどその大村さんが見学にいらっしゃっている。いつもいるギャラリーの方々とは違ってのほほんとベンチに座っているところから見て、真田にも許可されているんだろう。


「あと一周だよ、頑張って!」


その姿はまるで幸村のようで、私は何とも言えない気持ちになる。まあ部活中の幸村はこのぐらいのランニングで間違っても頑張って、なんて優しい言葉をかけはしないだろうが。
みんなはその声援に無邪気に笑ってるけど、仁王だけは違った。そうだ。私があの日から気になっているのはあの言葉だけじゃない。時々仁王がするあの表情、あれは何なのか。


「あ、叶井さん」

「え、あ、なに?」


考え事をしてる時にまさか話しかけられるなんて思ってもいなかったから、ちょっと挙動不審になってしまった。そんな私を見て、大村さんはくすりと笑う。その笑顔も確かに幸村みたいだね、そっくりとは言えないけれど。


「私も叶井さんのお手伝いしたいんだけど、いい?」

「え?でも…」

「みんなが頑張ってるの見てたら、私も何かみんなの力になりたいなって思って。少しだけでもいいから、お願い」


お願い、なんて私には到底できない可愛らしいお願いの仕方をされたら受け入れるしかないわけで。じゃあとりあえずタオル運びでも手伝ってもらおうかな。


「分かった。じゃあ悪いんだけど…」






結局その日の部活は半分くらいの仕事を大村さんに手伝ってもらってしまった。スコア付けも赤也や柳の話でテニスに興味を持ったとかで色々調べたらしく、ほとんど完璧にこなしてもらった。


「ありがとう大村さん。…何かごめんね、見学のはずだったのに」

「ううん、気にしないで。私が勝手にやったことだから」


何だ、意外といい子じゃん。それが私の今日の感想。
私が勝手に嫌なイメージを持ってただけで、実際長い時間関わってみればみんなが慕うのも頷けるような良い子だった。勝手な先入観を持って、馬鹿みたい。
ただ、仁王のことはまだ気になるんだけど。

その日はみんな大村さんを送って行くらしく、仁王と私で幸村のお見舞いに行くことになった。





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