そこは御愛嬌。 | ナノ





その次の日のこと。
昨日と同じようにひっそりとお弁当を食べていた私と仁王のもとに、なぜか大村さんが寄ってきた。
申し訳ないんだけどあんまり関わりたくないから離れようと立ち上がったら、仁王に右手首を掴まれてしまった。何だこの野郎離せ、なんて思っていたら、大村さんが仁王に掴まれている私の右手首をちらりと見て、次に仁王に向き直った。
ほら、私に用はないってさ。離してよ仁王。


「仁王くん、気分悪い?この前までみんなと昼食とってたのに」

「……別に」

「なら向こうで食べない?みんなで食べた方が楽しいし」

「遠慮するぜよ」

「そんなこと言わないでさ、ほら、」


そう言った大村さんの手が仁王の腕に触れた次の瞬間、パシ、と乾いた音がして、大村さんの手は弾かれていた。一瞬、私もみんなも、大村さんも、訳が分からなかった。


「仁王…?」


状況を把握したみんなが大村さんに心配そうに駆け寄った時、既に仁王は屋上のドアへ走っていた。仁王がテニス以外で走るのなんて、滅多にないことだ。


「おい、仁王!!」


真田の言葉も構うことなく出て行った仁王のことを、私も真田も追いかけることはできなかった。真田は後で叱るつもりらしいけど、私は違う。
私の錯覚かもしれないけれど、仁王の背中が、人を拒否しているように見えたからだ。

…仁王は一体どうしてしまったというのか。





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