そこは御愛嬌。 | ナノ
「また寝てる」
「…んん、起きてるよ」
「そんな眠そうな顔で言われても説得力ないよ」
顔を上げれば幸村がいて、ついでにお弁当を持っていたので私もお弁当を取り出す。
「寝てないよ、突っ伏してただけで」
「どうだろうね」
「考え事してたんだって」
考え事っていうか、思い出してたんだけど。そう言えば半信半疑だった幸村の顔がすぐに興味に変わった。
「へえ、何を?」
「幸村が友達になってくれって言ってきた時のこと」
「…ふうん。そういえば、もう随分前のような気がするね」
幸村も思い出したのか、ふっと小さく笑った。当然だけどその笑顔はあの時に比べれば幾分かの余裕を含んでいて、というより当時の方が珍しかったと知ったのはあれから少し経ってからのこと。
「あの時の幸村の必死な顔、一生忘れないよ」
「仕方ないだろ、あんなこと言うの初めてだったんだから。それより、何で今更そんなこと思い出したんだい?」
「分かんない、何となく……あ、丸井」
幸村越しに見える赤髪はクラスの女子からチョコやらスナック菓子やら、色々なお菓子を貰っている。部室のロッカーにはその倍くらいのお菓子を詰め込んでるくせに、どんだけ食べるんだよあいつ。
そんな丸井はそろそろ幸村にしばかれるんだろうなあと思いながら、わざと丸井がいるのと逆のドアへ歩く幸村の後ろに私も続いた。