そこは御愛嬌。 | ナノ
「はーあ、今日はマジ疲れた」
校門に寄りかかりながらそう言ったのは、さっきまで幸村と試合をしていた丸井。それに同意する仁王。
ほんといい気味。
「まだ妙な感じがするナリ」
「だーから幸村くんと試合するのヤなんだよなあ…」
今は部誌の関係で部室に残っている三強を待ってるところで、幸村がいないから二人とも言いたい放題。
「五感奪うなんて人の領域超えてるぜよ」
「だから神の子なんだろぃ」
「あー」
「つーか幸村くんってあれ神の子って言うよりもう神だよな」
「…神って基本的に人間を救ってくれるんじゃないんか」
「……」
「……」
昼休みのように黙りこくる二人の肩にふと手が掛けられる。…あーあ、私知らない。
「何の話をしてたんだい?」
びくりと二人の肩と頬が引きつったのは言うまでもなくて、慌てて弁解する二人に笑いながら全員揃った私たちも歩き出す。ぎゃあああと叫ぶ二人に何が起こったのかは分からないし分かりたくないけれどただざまあみろとだけ思う。
反対の前方では赤也がジャッカルに肉まんをねだっていた。そっか、今は冬か。そういえばちょっと前まではこの時間でも明るかった空には、もう星がよく見えた。
しばらくして追いついた幸村たちと歩調を合わせながら歩く。
「あれから三ヶ月ねえ…」
「ん?」
「幸村と友達になった日」
「ふふ、またその話?」
自分でもそう思うけれど、今日はやけにあの日を思い出してしまう。ただ今思い出したのは、あの日の放課後もこうして幸村と帰ったからなんだろう。空が明るかったのをよく覚えているのも、あの日が最後だ。
「マネージャーになってからは一ヶ月くらいかな」
「…もうそんなに経ったんだ」
私がようやくこの空間に馴染んだのは、たった二週間前のことだったと思う。けれどあの時あんなにも遠く感じていたこの空間が今となっては私の居場所になってるんだから、人生って何があるか分かんない。
「マネージャーになって良かった?」
「…ちょっと騒がしいけどね」
ふふ、と笑った幸村の息が白く染まる。
気付けば騒がしかった赤也が静かになっていて、どうやら奢ってもらえることになったらしい。ジャッカルも大変だなあと思いながら、私も白い息を吐いた。